KENWOOD L-01T (2号機) が到着 → ゲット!
2023年4月3日、岩手県一関市の S さんから
KENWOOD L-01T
の修理依頼品が到着しました。
この写真は照明を完全 LED 化後です。
内部状態がかなり悪く、多くの手間と物量の大量投入がが必要なことより修理キャンセルとなり、結果的に研究用に寄贈していただきました。
定価16万円
の高級 FM 専用チューナで
パルスカウント検波
です。
程度&動作チェック
-
依頼者のコメント
-
ヤフオクで入手したものです。
オークション記事にはジャンク扱い等の表示はありませんでした。
-
特に不具合は感じておりませんが、修理&再調整お願いします (LED仕様も可)。
-
外観
-
製造シリアル番号は [10220118] で、電源コードの製造マーキングより [1980年製造品] とわかりました。
-
底板に貼ってあるメンテナンスシールによると、[1992年3月24日] にメーカサービスで修理しています。
-
全体的には製造から43年も経っているとは思えない
奇跡的に超綺麗な逸品
です。
あくまで推定ですが、製造シリアル番号より
これ
かな?
-
[フロントパネル] は綺麗です。
スモークアクリル板の左上角に僅かな当てキズがありますが、目立ちません。
-
[リアパネル] は綺麗で端子類にも輝きがあります。
[天板] [底板] も綺麗です。
-
電源 ON してチェック
-
電源は問題なく入り、ランプ切れはありません。
-
電源 ON した直後は同調ノブ操作時にバリバリという雑音が入り同調し辛い状態でした。
-
しかし、一旦同調してしまえば、雑音はせず、[STEREO] ランプは点灯して、良い音が出ました。
-
上の状態から30分くらい経過したら急にバリバリ雑音だけになりました。
-
[STEREO] ランプも雑音に合わせチラチラと点滅するので、おそらくパルスカウント検波周辺の故障と推定します。
-
数時間電源 OFF してから ON してもバリバリ雑音しか出ないので、完全な故障状態になったようです。
-
カバーを開けてチェック
-
非常に綺麗な外観とは違って、内部の基板にはゴミが堆積しています。
-
目で見てハッキリわかるほど膨張している電解コンデンサが数10個あります。
寿命です。
全数交換が必要なレベルです。
-
誰かが指針用のランプを交換しています。
-
誰かが21個ある照明ランプ T4.2 (8V/0.1A) の足をソケットから引き出してランプ基板に直接ハンダ付けしています。
-
本来 T4.2 ランプはソケット式で交換可能ですが、こうなっているとハンダ付けを外さないと交換できません。
-
表示が暗いように思われ、おそらくオリジナルでないランプに全て交換されていると思います。
見えないことはないです。
-
バリコンに取り付けられたプーリーを手前に引くと、プーリーが軸ごと脱落します。
-
古いバリコンではこの故障が多いです。
-
バリコン軸が側面を向いている機種なら、側板から補助板を挿入してバリコン軸を押さえ込むという対策ができます。
-
ところが、本機はバリコン軸が正面を向いており、補助板を入れられる構造になっていないので対策できないです。
-
今まで脱落せずに動いていたので、これからも大丈夫なような気がしますが、保証はできません。
-
製造時からの実装の問題個所があります。
-
[L15] コイルが斜めになって実装されています。
基板裏側から見るとリードの一部がかすかにハンダ付けされている状態です。
-
[D25] の両端をジャンパワイヤで短絡していますが、この改造状態が醜いです。
-
[R4] がサーミスタに変更されていますが、この改造状態が醜いです。
-
[D25] [R4] については、おそらく何らかの問題があって KENWOOD 工場で基板を改造したのだと思います。
-
以上のように内部の状態がかなり悪いので、本当に修理するかどうか、修理依頼者に問い合わせました
-
手直しするには多くの作業時間や物量の大量投入が必要です。
修理・再調整しても、初期の性能に戻るかリスキーです。
-
修理依頼者の回答は「修理はキャンセルして研究用に寄贈します」でした。
-
研究用としては面白い個体です。
道楽ならいくら費用をかけても構わない
ので、復活に挑戦してみました。
リペア (その1):バリバリ雑音が出る
-
原因はパルスカウント検波に使われている 250kHz LPF の [FL3] の故障です
-
左の写真の黒い塊です。
[FL3] をチェックのため、基板から取り外してみました。
(右の写真)
-
[FL3] を取り外した状態で、IN/OUT を電線でつなぎ、IN〜GND 間に100pF のコンデンサを仮付けしてみたら雑音の無い音が出ました。
-
[FL3] の故障で間違いないです。
-
左の写真は [FL3] の裏側で、この向きのまま回路図化したのが右の回路図です
-
縦に3本のチクワみたいな部品がチタコンです。
左から C1, C2, C3 です。
-
チタコンが黒ずんでいますが、これはマイグレーションで劣化している兆候です。
-
LCR メータ
で計測すると、[L1=6.9mH] [L2=9.3mH] [C1=119pF] [C2=85pF] [C3=86pF] でした。
L1, L2 はコア調整で可変します。
-
刷毛で軽くチタコンの黒ずみを清掃してみると、[C1=35pF] に変化しました。
[C2] [C3] の容量に変化はありませんでした。
-
以上より、バリバリ雑音の真の原因は [C1] の絶縁劣化と判明しました。
-
対策
-
[FL3] から [C1] [C2] [C3] を除去して基板に戻しました。
(左の写真)
-
[C1] が劣化したということは [C2] [C3] ももういつ故障するかもしれないので、一斉除去したのです。
-
[C1] [C2] [C3] の代わりに 30ppm 温度補償積層セラミックコンデンサを基板の裏側でハンダ付けしました。
(右の写真)
-
写真の左から順に [C1=47pF] [C2=82pF] [C3=82pF] です。
-
後日、
BULESS さん
との情報交換で、この容量で合っていることが確認きました。
-
見事!直りました!!!
リペア (その2):[L15] [D25] [R4] の実装状態が醜い
-
[L15] [R4] は一旦取り外し、正しく実装して直りました。
-
写真は交換前に L-01T に実装されていた部品です。
-
チクワの形をした部品は [FL3] に実装されていたチタコンです。
-
右のほうにある部品はジャンパされた [D25] です。
-
不細工でしょ。
ここは単なるジャンパワイヤに置き換えました。
リペア (その3):電解コンデンサ全数交換
-
交換の方針
-
電解コンデンサは全部で79個
ありますが、バサッと一斉交換する。
-
[電源基板] の電解コンデンサは105℃クラスに交換する。
-
[チューナ基板] の電解コンデンサは 100uF 以上は105℃クラス、それ以下はオーディオクラスにする。
-
一部に BP (バイポーラ) 電解コンデンサを使用しているため、オーディオ用 BP 電解コンデンサに交換する。
-
交換リスト
基板 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
電源基板 |
C1 |
10uF/25V (85℃) |
10uF/25V (MUSE) (BP) |
オーディオクラスに交換 |
C2 |
10uF/25V (85℃) |
10uF/25V (MUSE) (BP) |
C3 |
2200uF/25V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C4 |
1000uF/25V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
容量アップ 105℃クラスに交換 |
C5 |
1000uF/25V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
C6 |
100uF/25V (85℃) |
100uF/35V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C7 |
100uF/10V (85℃) |
100uF/16V (105℃) |
C8 |
1000uF/25V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
容量アップ 105℃クラスに交換 |
C9 |
22uF/10V (85℃) |
22uF/16V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C10 |
1000uF/25V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
容量アップ 105℃クラスに交換 |
C11 |
100uF/25V (85℃) |
100uF/35V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C12 |
100uF/10V (85℃) |
100uF/16V (105℃) |
C13 |
1000uF/25V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
容量アップ 105℃クラスに交換 |
C14 |
22uF/10V (85℃) |
22uF/16V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C15 |
2200uF/25V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
C16 |
100uF/25V (85℃) |
100uF/35V (105℃) |
C17 |
100uF/10V (85℃) |
100uF/16V (105℃) |
C18 |
2200uF/16V (85℃) |
2200uF/35V (105℃) |
C19 |
22uF/10V (85℃) |
22uF/16V (105℃) |
C20 |
100uF/25V (85℃) |
100uF/35V (105℃) |
C21 |
100uF/10V (85℃) |
100uF/35V (105℃) |
C22 |
220uF/16V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
C23 |
22uF/10V (85℃) |
22uF/16V (105℃) |
チューナ基板 |
C23 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
オーディオクラスに交換 |
C24 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
C25 |
220uF/16V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C26 |
22uF/10V (85℃) |
22uF/25V (MUSE) (BP) |
オーディオクラスに交換 |
C27 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
C29 |
10uF/16V (BP) |
10uF/25V (MUSE) (BP) |
C30 |
47uF/16V (85℃) |
47uF/25V (MUSE) (BP) |
C33 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
C37 |
220uF/16V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C38 |
47uF/10V (85℃) |
47uF/16V (105℃) |
C39 |
470uF/16V (85℃) |
470uF/16V (105℃) |
C40 |
10uF/16V (BP) |
10uF/25V (MUSE) (BP) |
オーディオクラスに交換 |
C41 |
0.47uF/50V (85℃) |
0.47uF/50V (MUSE) (BP) |
C47 |
220uF/10V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C48 |
100uF/10V (85℃) |
100uF/16V (105℃) |
C49 |
10uF/16V (85℃) |
10uF/25V (MUSE) (BP) |
オーディオクラスに交換 |
C51 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
C52 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
C53 |
220uF/16V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C54 |
220uF/16V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
C55 |
100uF/16V (85℃) |
100uF/25V (MUSE) (BP) |
オーディオクラスに交換 |
C60 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
C65 |
220uF/16V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C66 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
オーディオクラスに交換 |
C67 |
220uF/16V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C68 |
47uF/16V (85℃) |
47uF/25V (MUSE) (BP) |
オーディオクラスに交換 |
C70 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
C74 |
220uF/16V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C75 |
220uF/16V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
C78 |
22uF/10V (85℃) |
22uF/25V (MUSE) (BP) |
オーディオクラスに交換 |
C79 |
10uF/16V (85℃) |
10uF/25V (MUSE) (BP) |
C80 |
3.3uF/50V (85℃) |
3.3uF/50V (MUSE) (BP) |
C86 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
C87 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
C90 |
220uF/16V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C91 |
100uF/10V (85℃) |
100uF/16V (105℃) |
C92 |
100uF/10V (85℃) |
100uF/16V (105℃) |
C95 |
100uF/16V (85℃) |
100uF/16V (105℃) |
C96 |
100uF/16V (85℃) |
100uF/16V (105℃) |
C97 |
220uF/16V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
C98 |
220uF/16V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
C99 |
22uF/10V (85℃) |
22uF/25V (MUSE) (BP) |
オーディオクラスに交換 |
C100 |
22uF/10V (85℃) |
22uF/25V (MUSE) (BP) |
C107 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
C108 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
C109 |
220uF/16V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C110 |
220uF/16V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
C111 |
220uF/10V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
C112 |
220uF/10V (85℃) |
220uF/16V (105℃) |
C113 |
10uF/10V (BP) |
10uF/25V (MUSE) (BP) |
オーディオクラスに交換 |
C114 |
10uF/10V (BP) |
10uF/25V (MUSE) (BP) |
C115 |
100uF/16V (85℃) |
100uF/16V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C116 |
100uF/16V (85℃) |
100uF/16V (105℃) |
C117 |
100uF/10V (85℃) |
100uF/16V (105℃) |
C118 |
100uF/16V (BP) |
100uF/16V (BP) |
T メータ両端に挿入 回路図にない |
C122 |
1uF/50V (85℃) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
オーディオクラスに交換 |
-
一斉交換後、劇的に音が良くなりました!
-
パルスカウント検波らしい透明度のある優れた音になりました。
-
普通は電解コンデンサの交換をしても音が変わったかな?くらいの変化です。
-
これだけ変わるとは、この L-01T の電解コンデンサの劣化は相当酷かったと言えます。
-
電解コンデンサを全数交換して正解です。
L-01T (1号機)
でも同様だったので、L-01T は電解コンデンサ交換が正解のようです。
-
電解コンデンサ一斉交換後の記録写真
-
左側の大きな基板が [チューナ基板] で、右側の少し小さい基板が [電源基板] です。
-
[チューナ基板] で緑色をした部品はオーディオクラス電解コンデンサです。
カラフルになりました。
-
半世紀前の電解コンデンサに比べて二周りくらいサイズが小さくなって風通しが良くなりました。
信頼性が向上します。
-
元の電解コンデンサの取付状態は斜めに実装されていたりで綺麗ではありませんでしたが、交換後はスッキリ綺麗になりました。
【ご参考】周囲に張り付けている赤紙テープは作業中にキズを付けないための保護テープです。
当方では細心の注意を払ってメンテンスを行っております。
-
交換前に基板に実装されていた電解コンデンサです。
膨大な交換量です。
リペア (その4):DARC ノイズ対策
-
L-01T には日本の FM 多重放送からの雑音混入 (DARC ノイズ) という根本的な問題があります
-
USA の FM 多重放送 からの雑音混入 (SCA ノイズ) には対応しています。
変でしょ。
-
L-01T 発売時には日本の FM 多重放送 (DARC) の規格がまだ決まっていなかったのです。
-
このため、USA モデルの SCA ノイズ阻止回路のまま日本で L-01T を発売したのが、原因の元です。
-
現在 (2023年現在)、DARC 放送をしているのは NHK だけで、民放は放送していません。
-
対策 (その1)
-
概要
-
SCA の搬送波周波数は 67kHz、
DARC
は 76kHz で近いです。
-
搬送波検出回路を調整して、SCA → DARC の搬送波周波数に合わせ直せば DARC ノイズ対応できます。
-
対策
-
[D36-K]〜[GND] 間に DC 電圧計を接続します。
-
NHK FM を受信しながら [L10] [L11] を調整し最大電圧になるよう設定します。
これで完了です。
-
動作確認は DC 電圧計を [IC9-1pin]〜[GND] 間に接続し直し、[NHK 受信で -7V / 民放受信で +7V] なら OK です。
-
上記の対策をして、NHK 放送を聴きながらしばらく使ってみたら問題が発生!
-
ちゃんと調整したはずなのに [IC9-1pin] がずっと -7V にならず、数分おきに +7V に一時的に変化するのです。
-
[IC9-1pin] 電圧で SCA フィルタ ON/OFF を切り換えます。
この切り換わるタイミングでプチッという僅かな雑音が出ます。
-
DARC 信号の休止時間があるのだろうか?
深くは追求していません。
-
L-01T のような高級チューナを使う人にはこのプチッ雑音は耐え難いです。
-
もう1つ、重大な問題があります
-
SCA フィルタ OFF 時に 50dB 以上あった WIDE ステレオセパレーションが 30dB 程度に落ち込むのです。
-
原因は SCA フィルタ挿入による高域の位相がズレてステレオのサブチャンネルに影響するためです。
-
L-01T のような高級チューナを使う人にはこのセパレーション低下は耐え難いです。
-
結果として、この対策は失敗です。
-
別の対策を考えなくては ・・・
-
現在では SCA フィルタ OFF でも DARC ノイズは発生しなくなっています。
DARC の何が変わったのか?深くは追求していません。
-
ですから、SCA フィルタ ON するのは緊急的と考えてもよさそうです。
必要がある場合に人為的に ON する。
-
BULESS さん
の
新発見! KENWOOD サービスによる SCA 部の改造
にメーカでの対策回路の詳細がありました。
-
WIDE 時は今まで通り (SCA フィルタ OFF) で、NARROW 時は強制的に SCA フィルタ ON とします。
-
強引にも思えますが、勝手に SCA フィルタ ON/OFF されるよりはマシです。
プチッ雑音が出ない。
-
NARROW 時のステレオセパレーションはそもそも 30dB 程度なので、SCA フィルタ ON となってもさほど問題ありません。
-
こう考えると、強引とも思われたメーカ対策ですが、結構、合理的と思えます。
-
対策 (その2)
-
概要
-
WIDE 時は SCA フィルタ OFF とし、NARROW 時は SCA フィルタ ON とします。
(メーカ対策と同じ)
-
現在では SCA フィルタ ON も不要かもしれませんが、雑音が入るといった緊急事態に人為的に NARROW にすることで対処します。
-
高級 FM チューナで NARROW で聴く人はほぼおらず、緊急事態だけの対処とします。
-
一歩進めて、勝手に ON/OFF されてプチッ雑音が出るのを防止するため、SCA (DARC) 搬送波検出回路を切り離します。
-
こっちのほうが重大で、クラシックなど静かな音楽を聴いている時のプチッ雑音は非常に気になります。
-
KENWOOD ご自慢の誤動作する SCA (DARC) 搬送波検出回路とオサラバです。
これで安心です。
-
対策
-
まずは従来回路のおさらい
-
検波信号 (IN) に SCA (DARC) 搬送波があると SCA 検出 (OUT) が -7V になり、無いと +7V になります。
-
改造回路の説明
-
[R85] を除去すると、SCA (DARC) 搬送波検出回路が切り離されます。
誤動作しなくなります。
-
SCA (DARC) 搬送波検出回路の代わりに NARROW (T4) 信号を [D36] から入力し、SCA 検出 (OUT) を切り換えます。
-
NARROW (T4) 信号とは [IF BAND] スイッチと連動する信号で、NARROW 時は +14V で、WIDE 時は 0V です。
-
NARROW (T4) 信号 は、[チューナ基板] で [4] と書かれた端子に出ています。
-
以上より、[IF BAND] スイッチ WIDE 時に SCA 検出 (OUT) が +7V になり、NARROW 時に -7V になります。
-
成功です!!!
-
NHK FM を聴いていてプチッ雑音が入ることが無くなり、気持ち良くクラシック音楽を楽しめるようになりました。
-
WIDE 時にステレオセパレーションが落ち込むこともないです。
リペア (その5):照明用フィラメントランプの完全 LED 化
-
まずは分解して照明構造の調査
-
左の写真は [照明基板] を取り出した状態、右の写真は横から見た状態です。
-
[照明基板] に [散光板] が両面テープで接着されています。
-
[散光板] は厚さ 10mm の透明アクリル板で [照明基板] 基板側が白色塗装されており、周囲は黒塗装されています。
-
[散光板] には複数の半丸穴が開けられており、ここにランプが入って、その側面光で [散光板] 全体が光ります。
-
左の写真は [スケール板] [一番長い散光板を外した照明基板] [一番長い散光板] です。
右は取付構造図で、左側が正面です。
-
[スケール板] には周波数目盛やメータ目盛などが印刷されています。
なんと [スケール板] を外すとメータ指針は裸になる!!!
-
[散光板] は光を均一する目的で使われており、細長く均一に照射できる照明器があれば不要になりそうです。
-
LED の選定
-
左の写真は [テープ LED] で、右の写真は [3mm LED] です。
-
[周波数目盛] [メータ] [WORDS (MUTING などの文字)] の細長い散光板に対応する照明は [テープ LED] で置き換えます。
-
12.5mm あたり3個の高輝度 LED が実装されており、この単位でカットして使えます。
m あたり LED 240個という物凄い製品です。
-
テープ幅は 10mm でちょうどよいです。
裏側が両面テープになっており、実装が簡単です。
ペタンと貼るだけ!
-
色はウォームホワイト (電球色) としました。
-
LED 数が多いのでクールホワイトだと輝度を絞り切れないと思ったのです。
-
電球色とはいっても、ホワイトがかったスッキリした橙色になると思います。
-
均一な細長い発光ができるので、この部分の [散光板] は不要になるので取り去ります。
-
[▼印] [STEREO] [指針] に対応する照明は [3mm LED] で置き換えます。
-
スペックは [3mm 砲弾型] [白色] [25000mcd] [照射角30度] です。
-
LED は側面光に弱いといっても出ない訳ではないので、この用途なら大丈夫です。
-
指針も白色にしますが、これは DIMMER 時に指針付近の周波数目盛を照らす目的です。
-
LED 化前後のランプ回路
-
オリジナルのフィラメントランプの時の回路です。
ランプへは DC/AC 駆動が混在しています。
-
完全 LED 化後の回路です。
LED なので全て DC 駆動します。
-
[周波数目盛] には [テープ LED] を 300mm 使ったので、LED 数は72個です。
-
[メータ] には [テープ LED] を 137.5mm 使ったので、LED 数は33個です。
-
[WORDS] には [テープ LED] を 112.5mm 使ったので、LED 数は21個です。
[WORDS] とは [MUTING] などの文字部分です。
-
完成した LED 化 [照明基板]
-
写真のように、LED 化した [照明基板] の [テープ LED] にした部分はスッキリしています。
-
右半分のところの [WORDS] と [周波数目盛] の間に黒い物体が見えますが、これは自作の遮光板です。
-
これがないと DIMMER 時に [WORDS] の光が [周波数目盛] [メータ] へ回り込みます。
-
[厚紙を 10mm 幅にカットして適当に加工] → [黒ラッカー塗装] → [ボンドで貼り付け] と簡単 DIY です。
-
フィラメントランプと違って LED の発熱は微少なので、この程度の工作で十分です。
-
LED 数が多いので電流も多いと思われがちですが、[周波数目盛]+[メータ] にはたった 15mA、[WORDS] には 3mA です。
-
むしろ、単 LED の部分のほうが1本あたり 9mA 前後流しているので、こちらのほうが消費電力が大きいです。
-
側面方向に発光する LED があれば、もっと電流を押さえることができるのですが ・・・
-
ここも [テープ LED] にすることも考えましたが、[WORDS]〜[▼印] の間隔が僅かなので無理っぽいです。
-
劇的に消費電力が減りました。
エコです!
-
改造前のフィラメントランプでは 15W 以上電力消費していましたが、LED 化後は 1W 以下です。
-
長期的に考えると、安くなった電気代で今回の改造費はチャラになるような。
-
組み込んでチェック
-
すっ、すっ、すっ、素晴らしい!!!
期待以上の素敵で綺麗な表示です。
-
色は電球色とは違い、オレンジ色〜レモン色の中間くらいでスッキリ感があります。
L-01T としてはニューカラーです。
-
フィラメントランプの時はよ〜く見ると僅かな明るさムラがありましたが、LED 化後は全くムラがありません。
-
それと、DIMMER 時に指針の光で近くの周波数目盛を照射する目論見も成功です。
DIMMER 時でも受信周波数がわかります。
リペア (その6):DIMMER 時で何もしていない時に、突然、全灯してしまうことがある
-
DIMMER 機能とは
-
リアパネルの [CONTINUOUS DIAL LIGHT] スイッチを OFF にすると、[同調ノブ] に手を触れた時だけダイヤル照明を点灯する機能です。
-
[SW 基板] に実装されているトランジスタ [Q1] [Q2] を交換してみました
[Q1] [Q2] でダイヤル照明を ON/OFF します。
筐体が温まってきた時に熱暴走しているのでは?と考えました。
-
[Q1] を [2SC945]→[2SC1815-GR]、[Q2] を [2SD592]→[2SC3940A] に交換しました。
-
結果、このトランジスタ交換では直りませんでした。
-
[同調ノブ]〜[タッチセンサ]〜[IC7]〜[Q1] の信号レベルをチェック
-
[IC7] (TC4069UBP) の 1pin には [センサ基板] の出力が入ります。
-
[同調ノブ] に手を触れている時は 0V で、手を離している時は 7V です。
-
[IC7] は 14V 駆動しているので [HIGH レベル=14V×80%=11.2V 以上] です。
-
これに対して 7V では足らないのです。
そもそもの回路が悪いのです。
-
[センサ基板] の [L1] を調整したら、9V まで上げることができました
-
これで誤動作しなくなりましたが、これでも電圧が足らないです。
-
[センサ基板] の GND が弱い
-
[センサ基板] を留めるネジ1本だけで GND と接続しています。
-
これではネジの部分で接触不良が発生すると [センサ基板] が動作しなくなります。
-
接触不良が心配なので平座金とバネ座金付の M3 ネジと交換しました。
リペア (その7):内部の基板にゴミが堆積している
-
電解コンデンサ一斉交換のついでに、できる範囲で基板を清掃しました。
-
刷毛・綿棒・無水アルコール・エアブロアで清掃するのですが、部品が実装されているので完全には綺麗になりません。
-
[汚い]→[やや汚れがある] 程度に回復できました。
リペア (その8):バリコンに取り付けられたプーリーを手前に引くと、プーリーが軸ごと脱落する
-
[同調ノブ] を何回も回して試験してみましたが、脱落方向にプーリーが移動しないと確認できました
-
L-01T のプーリーは糸掛け機構の終端ではなく、左右から糸掛けされています。
このため、脱落方向に力が掛からないのです。
-
ちなみに、
L-02T
のプーリーは糸掛け機構の終端で、脱落方向に力が掛かります。
このため、L-02T では脱落対策が必須です。
-
以上より、放置しても大丈夫と判断しました
-
今回の LED 化で [照明基板] のプーリー側はフリーになっています。
プーリー押さえ込み板を入れることは可能ですが ・・・
-
結論として、
何もしなかった
です。
期待していたかたには申し訳なし。
再調整
-
電源電圧チェッック (VP)
-
実測値は以下のように正常でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
電源基板 端子13 |
+14V |
+14.3V |
〇 |
Front End, IF |
電源基板 端子15 |
+16V |
+16.4V |
〇 |
MPX |
電源基板 端子17 |
-16V |
-16.5V |
〇 |
MPX |
電源基板 端子19 |
+12V |
+12.9V |
〇 |
1'st OSC |
-
FM 受信部の調整
-
調整結果
-
電解コンデンサ全数交換が効いたのか、かなり良い性能に調整できました。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
54 |
54 |
dB |
NARROW |
35 |
35 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.031 |
% |
stereo |
0.031 |
% |
NARROW |
mono |
0.085 |
% |
stereo |
0.13 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-80 |
-78 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.04 |
dB |
使ってみました
-
デザイン
-
デザインはとても良いですが、ともかく大きいです。
-
電源を入れるとダイヤル面などが照明でパッと浮き上がります。
-
今回、照明を完全 LED 化したのでスッキリとした色合いになりました。
-
チューニングノブから手を離すと、同調サーボロックがかかります。
-
アンテナ端子に F 端子があるのが、ありがたいです。
-
今回の改造で [IF BAND] スイッチの機能が変わりました!
-
IF バンドを WIDE/NARROW に切り換えるのは従来通りです。
-
これに加えて SCA (DARC) フィルタも同時に ON/OFF します。
[WIDE で OFF] [NARROW で ON] です。
-
SCA (DARC) 混入雑音が入って聴き辛いと思ったら、NARROW に切り換えると雑音が消えます。
-
リアパネルにある [CONTINUOUS DIAL LIGHT] スイッチ
-
[ON] で、ダイヤルスケールとメータ照明が常時点灯します。
-
[OFF] で、ダイヤルスケールとメータ照明がチューニングノブに手を触れた時だけ点灯します。
面白い仕掛けです。
-
感度や音質
-
感度は良好で、高級機らしい安定な受信ができます。
-
音はパルスカウント検波らしいスッキリ感があります。
解像度感のある澄みきった音に聞き惚れます。
低音はよく出ています。
-
NHK FM でクラシック音楽を聴いていると、静寂の中からキラキラ輝く素晴らしい音が飛び出すのを感じます。
S/N が良いです。
-
人の声にもリアルさを感じます。
目の前で話していると錯覚しそうです。
-
素晴らしいチューナです。
ただし、半世紀物ですから新たに入手した場合は多くのリペアが必要になると思います。