KENWOOD L-02T (3号機) が到着
2023年4月21日、岩手県一関市の S さんより
KENWOOD L-02T
の修理依頼品が到着しました。
定価30万円の超高級チューナ
です。
この写真は照明を LED 化した後です。
状態チェック
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修理依頼者のコメント
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yahoo オークションにて入手しました。
あくまで推定ですが、製造シリアル番号より
これ
かな?
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出品者より直接送付しますので、調整・リペア・LED 化をお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [40100017] で、電源コードの製造マーキングよりは製造年が判明しませんでした。
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フロントパネル
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同調ノブ周りに軽い変色があります。
これはアルマイトの変色でクリーニングしても直りません。
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[左上エッジ] [右上エッジに2箇所] [上部エッジの左から1/20] [右エッジの下から1/4] に僅かな当てキズがあります。
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上記以外は綺麗ですが、新品のようなピカッと光る輝きはありません。
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[OUTPUT LEVEL] ノブがガタついています。
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リアパネル
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左から1/3に少し当てキズがあります。
RCA 端子に白い薄いサビがありますが、問題はないです。
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天板
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左から1/4の中ほどにキズがあって、黒の塗料で補修塗りされています。
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リアパネルと接する一番奥の左右に僅かな当てキズが2箇所あります。
ラックから取り出す時に当たったのだと思います。
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[左側板] [右側板] [底板] は綺麗です。
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以上より、全体的には外観は [並の中古] 状態です。
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電源 ON してチェック
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ランプ切れはありません。
ダイヤル指針とメータ照明だけがフィラメントランプで、それ以外は LED です。
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ダイヤル指針が非常に見えにくく、指針がどこを指しているかわかりません。
指針ランプが劣化しています。
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3個あるメータの照明が暗く状態把握に支障があります。
メータ照明ランプが劣化しています。
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電源スイッチを押し込んで ON すると、もう1度押して OFF しようとしてもうまく戻りません。
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[REC CAL] [LPF] [MUTING] ボタンにチャタリングがあって、うまく設定できません。
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80MHz 以下で同調ノブを回すと、回転に合わせブチブチという大きな雑音が出ます。
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問題なく受信できステレオにもなりますが、S メータを信じると 15dB 以上感度が落ちています。
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カバーを開けてチェック
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メータ類の製造マークより、本機は [1983年製造品] と判明しました。
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基板にはゴミが堆積しています。
フロントパネル内にもゴミが多いです。
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汚れはありますが、サビなどはないです。
内部をいじった形跡はないです。
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バリコン機構のプーリーを外側に引くと、軸ごと脱落します。
リペア (その1):80MHz 以下で同調ノブを回すとブチブチという大きな雑音が出る
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原因はバリコン軸の接触不良です
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右の写真のように緑青サビが出ていました。
古いバリコンではよくある故障です。
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まずはこれを直さないとマトモに使えず、再調整に入れません。
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以下のようにバリコン軸の接触回復作業しました
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射してから、何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを刷毛や爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに
CRC 5-56
を塗布して防錆処置します。
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直りました!
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大量の緑青サビが除去できました。
結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
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もう同調ノブを回してもブツブチ雑音は出ず、スムーズに同調できるようになりました。
リペア (その2):照明を LED 化
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修理依頼者からの希望ですが、これも優先順位が高いです
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ランプ切れではないのですが、明るさがかなり暗くなっているようです。
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ランプ表示の指針はほとんど見えません。
これが直らないと再調整に入れません。
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3個あるメータの照明が暗い対策でもあります。
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L-02T (2号機)
と全く同じ方法で LED 化しました。
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LED 化が必要なのは [S メータ] [T メータ] [D メータ] [ダイヤル指針] です。
これ以外は元々 LED 表示です。
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左の写真の [FUSE 型 LED] はメータの照明に使います。
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1個で [6000K 白色 LED]×9個分搭載しており、全部で3個使います。
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メータ内に組み込むので、両端の口金を外して LED モジュールだけ使います。
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右の写真の砲弾型 LED は指針用に使います。
3mm 赤色、20000mcd、照射角 30°です。
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下の写真のように野暮ったい黄昏の電球色から明るく現代的な白色に変わりました。
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メータの数字は設計者は本来望んだであろう、綺麗な薄緑っぽい表示になりました。
やはり白色が正解です。
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見辛かったダイヤル指針は、明るい部屋の中でもハッキリ見えるようになりました。
リペア (その3):バリコンギア機構のプーリー軸の脱落防止対策
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[側板]〜[プーリー] の間に [特注アクリル板] (50×50×5mm) を挿入して、側板から脱落防止します。
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[側板]〜[プーリー] の間隔は 5.5mm なので、挿入する [特注アクリル板] とのクリアランスは 0.5mm になります。
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左の写真の赤〇で示した箇所に隙間がないのが正しいです。
放置すると隙間が大きくなって、最悪プーリー軸が脱落します。
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右の写真は、[特注アクリル板] を右側板にボンドで接着した後です。
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見事に対策できました!!!
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側板から [特注アクリル板] を介してプーリー軸を押しているので、もう脱落する心配は不要です。
リペア (その4):その他
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電源スイッチ戻りが悪い
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電源スイッチとフロントパネルの位置関係を調整して直りました。
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[OUTPUT LEVEL] ノブがガタついている
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原因は [OUTPUT LEVEL] ボリュームナットの緩みでした。
締め付け直しました。
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基板にはゴミが堆積しており、フロントパネル内にもゴミが多い
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基板の汚れは、刷毛とブロアで清掃してマシになりました。
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フロントパネル内の汚れは、(分解してから) 刷毛とブロアで清掃してマシになりました。
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[REC CAL] [LPF] [MUTING] ボタンにチャタリングがある
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本来ならタクトスイッチを交換すべきですが、特殊な形状のものを使っているので、同じ物の入手は困難です。
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やむを得ないので、
エレクトロニッククリーナ
をタクトスイッチに浸透させて接点清掃しました。
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問題なく使える程度に直りました。
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感度が落ちている
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[フロントパネル] [天板] [底板] [左右の側板] [フロントエンドの上部カバー] のクリーニング
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[フロントパネル] は
NEW プロインパクト中性クリーナ
で清掃しました。
オーディオ機器ですから、中性であることが重要です。
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上記以外は、それぞれ取り外して中性洗剤を使って水洗いしました。
水洗後はドライヤで乾燥して水分を蒸発させました。
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マシになりましたが、黒アルマイトの変色は改善しませんでした。
まあ当たり前なのですが、少し期待はあったので。
再調整
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電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
電源基板 |
15pin |
+14V |
+14.1V |
〇 |
FRONT END |
18pin |
-15.5V |
-13.8V |
〇 |
IF |
20pin |
+14V |
+14.0V |
〇 |
CN1 |
1pin |
-8V |
-8.07V |
〇 |
CONTROL |
2pin |
+8V |
+8.06V |
〇 |
CN2 |
2pin |
+15V |
+16.1V |
〇 |
MPX COMPOSITE (非安定) |
3pin |
-15V |
-16.8V |
〇 |
CN3 |
3pin |
+15V |
+16.3V |
〇 |
MPX R (非安定) |
4pin |
-15V |
-16.0V |
〇 |
CN4 |
1pin |
+12V |
+12.0V |
〇 |
RELAY |
3pin |
+8.5V |
+8.58V |
〇 |
LED |
4pin |
+7.4V |
+7.44V |
〇 |
POWER MUTE |
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FM 受信部の調整
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調整結果
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再調整で感度が大きく上がり、音質もビックリするほど向上しました。
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あちこち、めちゃくちゃ調整ズレしていました。
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前オーナが手放した理由はこれでしょう。
私のところに来て正解です。
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再調整後は高級機に相応しい優秀な数値です。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
58 |
59 |
dB |
NARROW |
46 |
46 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.01 |
% |
stereo |
0.01 |
% |
NARROW |
mono |
0.02 |
% |
stereo |
0.02 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-80 |
-79 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
-0.03 |
dB |
REC CAL 信号 |
WIDE |
mono |
421.9 |
Hz |
-6.0 |
dB |
使ってみました
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終わってみて
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いろいろ問題があって時間がかかると思いましたが、意外とスンナリ終わりました。
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いじられた形跡が無かったので、こういう意味では状態が良かったからでしょう。
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1号機
と
2号機
でのメンテナンス技術蓄積で新たに設計不要だったこともあります。
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やはりこの機種は照明 LED 化が正解です。
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朽ち果てたような黄昏色の表示が、スッキリ美しい現代的な表示になりました。
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LED 化で 14W 消費電力が減ったので発熱が少なくなり信頼性が上がりました。
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電気代も減るので、長期的には修理代が回収できるかも。
かなり長期間かかるような気もするが ・・・
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感度や音質
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流石に良い音
です。
安定度とか音質とかスペック表現できない部分が超優れています。
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感度が良く、高解像度でカチッとした超高音質です。
高域も低域もよく出ています。
S/N も良いです。
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高解像度の音なのにハーモニー再現力もあります。
放送スタジオに居るかのようなリアルな音にハッとします。