Technics ST-G900

Technics ST-G900 がやってきた!

2008年6月23日、私のチューナーページのファンより、まだ実物を見たことのなかった Technics ST-G900 を研究材料として借用しました。 リペア中に壊れても補償しないということで・・・

1991年頃の 受注生産モデル だったので希少品です。 中古市場には滅多に出てきません。 定価100,000円です。

早速、外観&動作チェックしました。



カバーを開けてみました

  1. 開けてビックリしました。 定価 59,800円の ST-G90 とほぼ同じ基板です。 もっと高級なのが実装されている期待があったので、余計にビックリしました。 写真をクリックすると拡大写真を表示できます。

  2. 紙エポキシ基板に部品が整然と並んでおり、作りが良く、基板サイズも大きく、まさにオーディオクラスです。

  3. ケーブルを手配線している箇所は全くなく、合理化された物づくりは、さすが松下は手馴れているようです。

  4. FM フロントエンドの構成が凄い!

  5. IF 部はユニフェーズ CF×5個も使っています。 IF アンプには AN278×3個や差動アンプ構成トランジスタなど、これも豪華です。 ただし、IF 歪補正回路などは組み込まれていません。

  6. FM 検波部は PLL 検波です。 PLL 発振部は金属シールドされています。 位相検出&検波はバランスド検波です。 PLL 帰還回路には FET による歪補正回路が入っています。

  7. MPX 部は IC302 + NEC uPC1223C となっており、L/R 別々にセパレーション調整できます。

  8. 19kHz パイロット信号フィルタが見当たりません。 おそらく、IC302 で PLL 同期してパイロット信号キャンセリングしているのだろうと思います。

  9. AM は2連バリキャップ構成です。 AM 用 RF 部や IF の IC が見当たりません。 おそらく基板裏に面付けされている IC103 でしょう。 この IC は FM 同調点の検出にも使われているようです。

  10. IC を使用して合理化が図られています。 主な IC は以下です。 この他に基板の裏面に面付けされた IC103 と IC302 が使用されていますが、基板を外してひっくり返さないと見られないので未確認です。 ST-G90 にチューニングノブを追加したので、MCU のプログラムが変更され、ST-G90 のものと型番が変更されています。


  11. 使用 IC のロット番号より、この ST-G900 は1992年製と判明しました。



調整

写真の FM/AM 標準信号発生器 Panasonic VP-8175A (以下 SSG)、 FM Stereo 信号発生器 MEGURO MSG-2170、 周波数カウンタ ADVANTEST TR5822 を使って調整します。 10年も経つとコイルやトリマはズレます。

  

  1. FM 同調点の調整

    手順 SSG周波数 SSG出力 ST-G900 の設定 調整箇所 TP 及び調整値 備考
    1 - - BAND : FM
    REC LEVEL : OFF
    RF BAND : NARROW
    IF BAND : NARROW
    - -  
    2 83MHz 変調 : OFF
    出力 : 90dB
    83MHz 受信 T101 TP101〜TP102 間電圧 = 0V ±20mV 以内

  2. FM フロントエンドの調整

    手順 SSG周波数 SSG出力 ST-G900 の設定 調整箇所 TP 及び調整値 備考
    1 - - BAND : FM
    REC LEVEL : OFF
    IF BAND : NARROW
    - -  
    2 89.9MHz - RF BAND : WIDE
    89.9MHz 受信
    フロントエンド内
    OSC コイル
    R2 のリア側電圧 = 11.0V VT high
    3 76.1MHz - RF BAND : WIDE
    76.1MHz 受信
    - R2 のリア側電圧 = 2.5V VT low
    確認のみ
    4 83MHz 変調 : OFF
    出力 : 30dB
    RF BAND : WIDE
    83MHz 受信
    フロントエンド内
    RF コイル×3
    VR103 電圧 = 最大 RF WIDE 調整
    5 76.1MHz 変調 : OFF
    出力 : 30dB
    RF BAND : NARROW
    76.1MHz 受信
    L1, L2, L4 VR103 電圧 = 最大  
    6 89.9MHz 変調 : OFF
    出力 : 30dB
    RF BAND : NARROW
    89.9MHz 受信
    CT1, CT2, CT3 VR103 電圧 = 最大  
    7 - - - - 手順5〜6を数回繰り返す RF NARROW トラッキング調整
    8 83MHz 変調 : OFF
    出力 : 30dB
    RF BAND : NARROW
    83MHz 受信
    フロントエンド内
    IFT
    VR103 電圧 = 最大 IF 調整

  3. FM IF 部の調整

    手順 SSG周波数 SSG出力 ST-G900 の設定 調整箇所 TP 及び調整値 備考
    1 - - BAND : FM
    REC LEVEL : OFF
    RF BAND : WIDE
    IF BAND : NARROW
    - -  
    2 83MHz 変調 : OFF
    出力 : 30dB
    83MHz 受信 T104 VR103 電圧 = 最大 IF NARROW 調整
    3 83MHz 変調 : OFF
    出力 : 40dB
    IF BAND : WIDE/NARROW
    83MHz 受信
    VR105 レベル表示 = WIDE/NARROW で同一 IF NARROW ゲイン調整

  4. FM PLL 検波部の調整

    手順 SSG周波数 SSG出力 ST-G900 の設定 調整箇所 TP 及び調整値 備考
    1 - - BAND : FM
    REC LEVEL : OFF
    RF BAND : WIDE
    IF BAND : WIDE
    - -  
    2 83MHz 変調 : OFF
    出力 : 90dB
    83MHz 受信 T102 R146 の T102 側波形 = 最大 シンクロスコープで観測
    3 83MHz 変調 : OFF
    出力 : 90dB
    83MHz 受信 T103 TP105〜TP106 間電圧 = 0V ±10mV 以内
    4 83MHz 変調 : 1kHz 100%
    出力 : 90dB
    83MHz 受信 VR101 オーディオ出力 = 高調波歪最小 モノラル高調波歪調整

  5. MPX 部の調整

    手順 SSG周波数 SSG出力 ST-G900 の設定 調整箇所 TP 及び調整値 備考
    1 - - BAND : FM
    REC LEVEL : OFF
    RF BAND : WIDE
    - -  
    2 83MHz Pilot 信号 : OFF
    変調 : OFF
    出力 : 90dB
    IF BAND : WIDE
    83MHz 受信
    VR302 TP301 周波数 = 19kHz±50Hz VCO フリーラン周波数
    3 83MHz Pilot 信号 : ON
    変調 : L-R, 1kHz 100%
    出力 : 90dB
    IF BAND : WIDE
    83MHz 受信
    フロントエンド内
    IFT
    オーディオ出力 = 高調波歪最小 IF WIDE
    ステレオ高調波歪調整
    4 83MHz Pilot 信号 : ON
    変調 : L-R, 1kHz 100%
    出力 : 90dB
    IF BAND : NARROW
    83MHz 受信
    T104 オーディオ出力 = 高調波歪最小 IF NARROW
    ステレオ高調波歪調整
    5 83MHz Pilot 信号 : ON
    変調 : R only, 1kHz 100%
    出力 : 90dB
    IF BAND : WIDE
    83MHz 受信
    VR303 L ch. オーディオ出力電圧 = 最小 セパレーション調整
    6 83MHz Pilot 信号 : ON
    変調 : L only, 1kHz 100%
    出力 : 90dB
    IF BAND : WIDE
    83MHz 受信
    VR304 R ch. オーディオ出力電圧 = 最小 セパレーション調整
    7 - - - - 手順5〜6を数回繰り返す  

  6. シグナルレベル表示の調整

    手順 SSG周波数 SSG出力 ST-G900 の設定 調整箇所 TP 及び調整値 備考
    1 - - BAND : FM
    REC LEVEL : OFF
    RF BAND : WIDE
    IF BAND : WIDE
    - -  
    2 83MHz 変調 : OFF
    出力 : 30dB
    83MHz 受信 VR103 シグナル表示 = 30dB  
    3 83MHz 変調 : OFF
    出力 : 60dB
    83MHz 受信 VR102 シグナル表示 = 60dB  
    4 83MHz 変調 : OFF
    出力 : 90dB
    83MHz 受信 VR101 シグナル表示 = 90dB  
    5 - - - - 手順2〜4を数回繰り返す  

  7. AM 受信部の調整

    手順 SSG周波数 SSG出力 ST-G900 の設定 調整箇所 TP 及び調整値 備考
    1 - - BAND : AM - - AM ループアンテナを接続する。
    SSG 出力は10kΩ抵抗を介して EXT から注入する。
    2 1629kHz - 1629kHz 受信 L204 R2 のリア側電圧 = 8.3V VT high
    3 522kHz - 522kHz 受信 - R2 のリア側電圧 = 1.8V VT low
    確認のみ
    4 603kHz 変調 : OFF
    出力 : 60dB
    603kHz 受信 L203 R203 の IC103 側波形 = 最大 シンクロスコープで観測
    5 1395kHz 変調 : OFF
    出力 : 60dB
    1395kHz 受信 CT201 R203 の IC103 側波形 = 最大 シンクロスコープで観測
    6 - - - - 手順4〜5を数回繰り返す RF トラッキング調整
    7 603kHz 変調 : OFF
    出力 : 60dB
    603kHz 受信 T201 R203 の IC103 側波形 = 最大 IF 調整
    シンクロスコープで観測

  8. 再調整結果

    1. FM フロントエンドが少しズレていました。 調整で 4dB 感度が上がりました。 「RF WIDE/NARROW で NARROW 側で感度落ちする」現象は -12dB から -6dB にまで改善しました。 調べてみましたが、NARROW RF に切り換えるリレーの接触不良なし、RF 段を結合するコンデンサの容量抜けなし、Dual Gate FET の 3SK74 はちゃんと増幅している・・・でしたので、この程度の感度落ちはスペック内かもしれないです。 もし、調整するとしたら 3SK74 を複数交換してみて、選別するしかなさそうです。

    2. FM IF 部で NARROW ゲインがズレていました。 WIDE ゲインと一致するよう調整しました。

    3. FM 同調点が限界ギリギリまでズレていました。 調整値で 272mV → 5mV になりました。

    4. FM PLL 検波部の検波部に注入する側の 10.7MHz IFT が大きくズレていました。 この調整で最初に感じた「鼻づまりの音」の不具合は完全に解消し、とても良い音になりました。

    5. FM PLL 検波部の NULL 電圧が若干ズレていました。 調整値で 26mV → 2mV になりました。

    6. FM MPX 部の VCO が大きくズレていました。 この調整で最初にあった「無変調の電波を注入すると、ビューンという小さい唸り音がオーディオ出力から出る」の不具合は完全に解消し、とても良い音になりました。

    7. FM MPX 部の再調整で、パイロット信号キャリアリークは -60dB, 左セパレーション 61dB, 右セパレーション 59dB に改善しました。 いずれもスペックよりは低いですが、この個体の限界です。 たぶん、カタログスペック値はチャンピオンデータなのでしょう。

    8. 特に 項4〜7 の再調整が音質改善になりました。 調整後はとても良い音なので、楽しんで音楽を聴けるようになりました。 再調整は成功です!



使ってみました



仕様&その他