Marantz ST-50

Marantz ST-50 をゲット!

2009年11月30日、私のチューナーページのファンからシンセサイザー FM/AM チューナーの Marantz ST-50 の寄贈を受けました。

Marantz ST-50 は不思議な型番で、ST-50 型番で外観や機能が全く違う3モデルあります。 区別するため、この写真のものは ST-50L と呼ばれるようです。

あまり注目されないマシンですが、調査&評価の結果、 高級機に迫る優秀機 と判断しました。



早速、程度&動作チェック

  1. 外観

  2. 入手した状態のまま電源 ON してチェックしました



カバーを開けてみました

  1. 開けてビックリ ・・・ 基板が小さいです。 ただし基板の作りや部品のグレードが良いのでシッカリ作ってある感じがします。 写真をクリックすると拡大写真を表示できます。

  2. IC を使用して合理化が図られています。


  3. FM フロントエンドはミツミ製で4連バリキャップです。 Panasonic ST-G560 のフロントエンドと同じもののように見えます。 トリマーコンデンサがありません ・・・ よってトラッキング調整は空芯コイルによる1点調整となります。

  4. FM IF 部は以下の構成です。 かなり複雑な構成となっており、気合が入っているのが判ります。

    [LA1266] はクォードラチュア検波回路を持っていますが、この回路は使っていないです。 S メータ電圧取り出しはやっています。 Marantz はこういう使い方(設計)が特徴的です。

  5. FM 検波部は 大型ディスクリ IFT を使用した広帯域レシオ検波です。 レシオ検波も良い部品を使うと良い性能が出ます。 Marantz のレシオ検波は良い音がします。

  6. MPX 部は [LA3450] で構成します。 この IC は良い音が出ます。 入手した直後に良い音だと思った要因の1つと思います。

  7. AM 部のフロントエンドは2連バリキャップです。 [LA1266] で全てを構成します。

  8. メモリバックアップはフロントパネル基板上の電気二層コンデンサ CS01 (0.047F 5.5V) で行います。

  9. なかなか良い構成です ・・・ 1989年に35,000円と中低価格機種ですが、これまでの調査で判るように、以下の音と性能が良くなる条件が整っています。




修理&清掃



調整

写真の FM/AM 標準信号発生器 Panasonic VP-8175A (以下 SSG)、 FM Stereo 信号発生器 MEGURO MSG-2170、 周波数カウンタ ADVANTEST TR5822 を使って調整します。 10年も経つとコイルやトリマはズレます。

  

  1. 電圧チェック

    TP 標準値 実測値 備考
    U803 (ジャンパー) +12V +12.02V チューナー全般用
    [Q802 (L78MR05)]-5pin +5.6V +5.59V MCU 電源

  2. FM 受信部の調整

    手順 SSG周波数 SSG出力 ST-50 の設定 調整箇所 TP 及び調整値 備考
    1 - - SELECTOR : FM - -  
    2 - - 90MHz 受信
    IF BAND : WIDE
    FM MODE : MONO
    FM フロントエンド
    OSC コイル
    C502 左側電圧 = 11.0V VT High
    3 - - 76MHz 受信
    IF BAND : WIDE
    FM MODE : MONO
    - C502 左側電圧 = 2.5V VT Low
    確認のみ
    4 83MHz 30dB
    変調 : MONO 400Hz
    83MHz 受信
    IF BAND : WIDE
    FM MODE : MONO
    FM フロントエンド
    RF コイル×3
    U233 電圧 = 最大 RF 調整
    5 83MHz 30dB
    変調 : MONO 400Hz
    83MHz 受信
    IF BAND : WIDE
    FM MODE : MONO
    FM フロントエンド
    IFT
    U233 電圧 = 最大 IF 調整
    6 83MHz 30dB
    変調 : MONO 1kHz
    83MHz 受信
    IF BAND : NARROW
    FM MODE : MONO
    L201 U233 電圧 = 最大 IF NARROW 調整
    7 83MHz 40dB
    変調 : MONO 400Hz
    83MHz 受信
    IF BAND : WIDE/NARROW
    FM MODE : MONO
    R218
    (NARROW GAIN)
    U233 電圧 = WIDE/NARROW で同一 NARROW GAIN
    8 83MHz 90dB
    変調 : MONO 1kHz
    83MHz 受信
    IF BAND : WIDE
    FM MODE : AUTO
    L202 リア側コア オーディオ出力 = 高調波歪最小  
    9 83MHz 90dB
    変調 : MONO 1kHz
    83MHz 受信
    IF BAND : WIDE
    FM MODE : AUTO
    L202 フロント側コア J201 端子間電圧 = 0V  
    10 - - - - 手順8と9を数回繰り返す ディスクリ調整
    11 83MHz 22dB
    変調 : MONO 400Hz
    83MHz 受信
    IF BAND : WIDE
    FM MODE : AUTO
    R235
    (FM MUTE)
    MUTING ON/OFF の閾値に設定 MUTING レベル調整

  3. MPX 部の調整

    手順 SSG周波数 SSG出力 ST-50 の設定 調整箇所 TP 及び調整値 備考
    1 - - SELECTOR : FM
    FM MODE : AUTO
    - -  
    2 83MHz 90dB
    Pilot 信号 : ON
    変調 : OFF
    83MHz 受信
    IF BAND : WIDE
    R302
    (PILOT CAN)
    オーディオ出力電圧 = 19kHz 成分最小 パイロットキャンセル調整
    3 83MHz 90dB
    Pilot 信号 : ON
    変調 : STEREO 1kHz
    83MHz 受信
    IF BAND : WIDE
    FM フロントエンド
    IFT
    オーディオ出力 = 高調波歪最小 WIDE 歪調整
    ±90度の範囲で調整
    4 83MHz 90dB
    Pilot 信号 : ON
    変調 : STEREO 1kHz
    83MHz 受信
    IF BAND : NARROW
    L201 オーディオ出力 = 高調波歪最小 NARROW 歪調整
    ±90度の範囲で調整
    5 83MHz 90dB
    Pilot 信号 : ON
    変調 : R/L ch. only 1kHz
    83MHz 受信
    IF BAND : WIDE
    R303
    (WIDE SEP)
    L/R ch. オーディオ出力電圧 = 最小 WIDE セパレーション調整
    6 83MHz 90dB
    Pilot 信号 : ON
    変調 : R/L ch. only 1kHz
    83MHz 受信
    IF BAND : NARROW
    R304
    (NARROW SEP)
    L/R ch. オーディオ出力電圧 = 最小 NARROW セパレーション調整

  4. AM 受信部の調整

    手順 SSG周波数 SSG出力 ST-50 の設定 調整箇所 TP 及び調整値 備考
    1 - - SELECTOR : AM - -  
    2 - - 1602kHz 受信 LA02 C502 左側電圧 = 7.3V VT High
    3 - - 531kHz 受信 - C502 左側電圧 = 1.2V VT Low
    確認のみ
    4 603kHz 40dB
    変調 : 400Hz
    603kHz 受信 LA01 U233 電圧 = 最大  
    5 1404kHz 40dB
    変調 : 400Hz
    1404kHz 受信 CA01 U233 電圧 = 最大  
    6 - - - - 手順4と5を数回繰り返す RF トラッキング調整
    7 999kHz 40dB
    変調 : 400Hz
    999kHz 受信 FA01 U233 電圧 = 最大 IF 調整

  5. 調整結果

    1. FM フロントエンドで若干ズレがあり、再調整で S メータの1レベル分感度が向上しました。

    2. FM ステレオセパレーションなどは以下となりました。 問題ない数値です。

    3. [LA3450] 使用にしてはセパレーションが若干低いのは、セパレーション調整ボリュームが左右共用だからです。 左右別々に改造すると、あと 10dB は上がりそうですが、そこまでの改造は止めておきましょう。

      項目 IF BAND L R 単位
      ステレオセパレーション WIDE 52 52 dB
      ステレオセパレーション NARROW 38 40 dB
      パイロット信号キャリアリーク WIDE -54 -55 dB
      オーディオ出力レベル偏差 (MONO) WIDE 0 -0.23 dB



使ってみました

  1. Marantz らしいデザインです

  2. 機能関連

  3. 高音質です

  4. お奨めできるチューナーです。 高級機に迫る優秀機 です。



S メータ



仕様

  1. ドキュメント

  2. 仕様は以下です。

    FM チューナー部  
    受信周波数範囲 76〜90MHz
    実用感度 (75Ω) 1.0uV/11.3dBf
    S/N 50dB 感度 (75Ω) mono : 2.5uV/19.2dBf
    stereo : 25uV/39.2dBf
    全高調波歪率 (1kHz) WIDE mono : 0.08%
    WIDE stereo : 0.1%
    S/N 比 mono : 85dB
    stereo : 76dB
    キャプチャーレシオ (IHF) WIDE : 1.5dB
    実効選択度 (IHF) WIDE : 40dB
    NARROW : 75dB
    ステレオセパレーション WIDE : 50dB (1kHz)
    周波数特性 30Hz〜15kHz +0.5, -1.5dB
    イメージ妨害比 (IHF) 80dB
    IF 妨害比 (IHF) 90dB
    スプリアス妨害比 (IHF) 95dB
    AM 抑圧比 (IHF) 60dB
    サブキャリア抑圧比 60dB
    アンテナ入力インピーダンス 75Ω不平衡
    出力レベル/インピーダンス 940mV/1.5kΩ (100% 変調)
    AM チューナー部  
    受信周波数範囲 531〜1602kHz
    実用感度 AM ループアンテナ: 500uV/m
    全高調波歪率 0.3%
    S/N 比 52dB
    選択度 30dB
    イメージ妨害比 40dB
    IF 妨害比 60dB
    出力レベル/インピーダンス 280mV/1.5kΩ (30% 変調)
    総合  
    電源電圧 AC100V, 50/60Hz
    定格消費電力 (電気用品取締法) 10W
    外形寸法 420(W)×104(H)×353(D)mm
    重量 3.8kg
    その他  
    発売時期 1989年
    定価 35,000円