SONY ST-S333ESXU (7号機) が到着!
2023年6月21日、奈良県生駒郡の K さんより
SONY ST-S333ESXU
の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
-
修理依頼者からのコメント
-
昭和63年 (1988年) に購入しました。
今のところ動作は正常です。
-
かなり古いので各部の調整と古い部品、特に電解コンデンサの交換をお願いします。
-
外観
-
製造シリアル番号は [207274] で、電源コードの製造マーキングより [1988年製造品] とわかりました。
-
[純正 AM ループアンテナ] は添付されていませんでした。
-
ワンオーナのためか全体的にはかなり綺麗ですが、以下のスレが残念なところです。
これがなければ逸品と言えるのに ・・・
-
フロントパネルのディスプレイ部の透明アクリル板に目立つスレがあります。
-
更に透明アクリル板の左側を押すとグラグラ動きます。
接着が外れているようです。
-
おそらく、この透明アクリル板に何かの重たい物体が衝突したのだと思います。
-
天板にこの上に乗せられていたであろう機器の丸い足形が付いています。
-
リアパネルの状態は良好です。
RCA 端子に輝きがあります。
-
電源 ON してチェック
-
電源は正常に入り、FL 表示器の輝度は新品同様で、操作ボタンの動作も正常で問題ありません。
-
FM 受信は正常で [STEREO] 表示も出ます。
周波数ズレもないです。
-
FM の主要特性を計測してみると以下の結果でした。
かなり良好です。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
52 |
55 |
dB |
NARROW |
37 |
39 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.014 |
% |
stereo |
0.046 |
% |
NARROW |
mono |
0.15 |
% |
stereo |
0.15 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-53 |
-57 |
dB |
-
手持ちのループアンテナを接続しての AM 受信は良好で感度も良いです。
-
カバーを開けてチェック
-
内部は非常に綺麗でゴミが全く見当たりません。
すごく状態が良いです。
-
基板は綺麗です。
電解コンデンサの膨張や液漏れは見られません。
IFT の金属カバーはピカピカです。
-
トリマコンデンサにサビは出ておらず真鍮部分はピカピカで、交換の必要はなさそうです。
-
電気二重層コンデンサは綺麗で、交換の必要はなさそうです。
-
[C604] に短絡故障になりやすいタンタルコンデンサが使われており、これは積層セラミックコンデンサに交換したほうがよいです。
リペア
-
[電解コンデンサ] [タンタルコンデンサ] の交換
-
交換方針
-
全ての電解コンデンサに液漏れ等の劣化は見られず、状態が非常に良いので全数交換は (音が変わるリスクがあるので) お奨めしません。
-
ただし、電源部の電解コンデンサは常に高熱にさらされて劣化しているかもしれず、この部分だけの交換とします。
-
基本は 105℃クラス (耐熱) の電解コンデンサを使い信頼性を上げます。
一部にはオーディオクラスの無極性品を使います。
-
タンタルコンデンサはある日突然、短絡故障します。
他のコンデンサにするのが吉です。
-
タンタルコンデンサは無条件に積層セラミックコンデンサに交換します。
こりらのほうが ESR が低く性能がよいです。
-
交換リスト
種別 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
電解コンデンサ |
C901 |
1uF/50V (MUSE) |
1uF/50V (MUSE) (BP) |
無極性に交換 |
C902 |
100uF/16V (MUSE) |
100uF/16V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C908 |
470uF/35V (85℃) |
470uF/35V (105℃) |
C918 |
47uF/35V (85℃) |
56uF/35V (105℃) |
容量アップ 105℃クラスに交換 |
C919 |
100uF/35V (85℃) |
100uF/50V (105℃) |
105℃クラスに交換 |
C920 |
330uF/50V (MUSE) |
470uF/50V (105℃) |
容量アップ 105℃クラスに交換 |
タンタルコンデンサ |
C604 |
10uF/6.3V (タンタル) |
10uF/25V (積層セラミック) |
高価なコンデンサ |
-
交換前後の記録
-
左の写真で黄〇で囲んだものが交換対象の電解コンデンサです。
右の写真は交換後です。
-
左の写真で黄〇で囲んだものが交換対象のタンタルコンデンサです。
右の写真は積層セラミックコンデンサに交換後です。
-
フロントパネルのディスプレイ部の透明アクリル板の左側を押すとグラグラ動く
-
フロントパネルを外して裏側を確認すると、やはり接着が外れていました。
よほど強い衝撃があったのでしょう。
-
右の写真は再接着中の様子です。
副木 (そえ木) を当ててボンドが乾くのを待ちました。
まるで骨折の治療中みたい。
-
ボンドが乾いてからフロントパネルを組み立て直りました。
-
フロントパネルのディスプレイ部の透明アクリル板に目立つスレがある
-
他の物体がぶつかった時の相手の塗装の乗り移りは、無水アルコールで拭き取れました。
-
キズになった部分はどうしようもないのですが、目立たない程度には回復できました。
-
天板にこの上に乗せられていたであろう機器の丸い足形が付いている
-
OA クリーナでは変化なしで、無水アルコールでクリーニングしたところ、ほぼ消えました。
-
ハンダクラック対策 ・・・ 予防保守
-
ST-S333ESXUではアースバーのハンダ付け部分でハンダクラックが発生しやすいです。
-
アースバーのハンダ付け部分を補修ハンダ付けしました。
これで安心して使えます。
再調整
-
電圧チェック (VP)
-
電圧の実測値は以下のように正常でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
備考 |
JP4 |
+16V |
+15.3V |
チューナ用 |
JP5 |
+13V |
+13.1V |
FL 管用 |
JP6 |
+5.6V |
+5.59V |
デジタル用 (MCU) |
JP7 |
+30V |
+31.9V |
VT 電圧用 |
R909(R) |
-10V |
-9.96V |
コントロール用 |
-
FM/AM 受信部の調整
-
調整結果
-
ステレオセパレーションなどは以下のように素晴らしい数値になりました。
一級クラスの性能です。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
59 |
59 |
dB |
NARROW |
40 |
41 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.0094 |
% |
stereo |
0.041 |
% |
NARROW |
mono |
0.14 |
% |
stereo |
0.14 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-72 |
-72 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
0 |
dB |
CAL TONE |
WIDE |
mono |
304.7 |
Hz |
-5.2 |
dB |
-
AM は純正ループアンテナの添付が無かったので、IF 調整だけにしました。
使ってみました
-
デザイン
-
精悍なデザインで使いやすいです。
-
後継機の
ST-S333ESG
よりシンプルなデザインですが、むしろこちらのほうが使いやすいです。
-
(C リングパネルがないので) 直接的な快適ボタン操作ができます。
-
感度と音質
-
FM の感度は抜群に良く、S/N が良いです。
細かい音がよく聴けます。
FM 放送らしい柔らかめの音質です。
-
AM の感度も抜群に良く、S/N も良いです。
AM としては音質も良く、放送を楽しめます。