KENWOOD L-03T (2号機) が到着
2022年8月15日、鹿児島市の N さんから
KENWOOD L-03T
の修理依頼品が到着しました。
定価12万円
の
FM 専用チューナ
です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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ヤフオクで動作品として出品されていた L-03T を落札しました。
確かにモノ ラルでは受信できました。
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音質は私の90年代の SP によくあって、低音も良くでるようです。
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感度は低いです。
このままでもいいのですが、調整したらステレオになるでしょうか?
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外観
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製造シリアル番号は [311xxxx3] で、電源コードの製造マーキングより [1983年製造品] とわかりました。
xxxx の部分は不鮮明
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フロントパネルは正面からは綺麗ですが、天板への折り返し部分に数本の線キズがあります。
ゴミも堆積しています。
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リアパネルは綺麗です。
端子類の状態は良好です。
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天板は綺麗です。
底板は良好で銅メッキ鉄板の銅色が綺麗です。
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チューニングノブのエッジにポツンとした当てキズがありますが、そう気になりません。
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全体的には並みの中古よりは状態が良いです。
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電源 ON してチェック
かなり問題ありそうです
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電源は問題なく入りました。
ランプ切れはありません。
メータ照明だけがフィラメントランプで、それ以外は LED です。
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[FM RF SEL] スイッチが [LOCAL] では S メータが振れず、[DX] にしても 0.75 しか振れません。
フルスケールは5
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[MODE] スイッチが [MUTE ON] では音が出ず、[MUTE OFF] にしてやっと音が出ます。
出てくる音は良いです。
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[MUTE OFF] 位置は [MONO] でもあるので、当然 [STEREO] ランプは点灯しません。
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たまに [MUTE ON] でも受信できた時があり、この時は [STEREO] ランプが点灯しました。
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たまに [STEREO] ランプが点灯してもステレオ感がありません。
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[METER] スイッチが [SIGNAL] ではメータが振れますが、[DEVIATION] では全く振れません。
故障しています。
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ダイヤルの動きはスムーズですが、-0.2〜-0.1MHz 程度の周波数ズレがあります。
例えば 89.7MHz の放送が 89.5MHz で受信。
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[REC CAL] スイッチ ON で録音用テスト音が正常に出ます。
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カバーを開けてチェック
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内部は綺麗でした。
目視で特に問題ありそうな部品はありません。
リペア
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S メータが少ししか振れない
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フロントエンドの仮調整で少し感度が上がったのですが、まだまだ感度が低いです。
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普通、感度低下はこの調整で直ることがほとんどですが、本機では直らなかったです。
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本機は [ノンスペクトラム IF] という複雑な IF 回路となっています。
まさかと思いましたが、再調整してみました。
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10個くらいある IFT を仮調整したら感度が大幅に上がって S メー タが 4.5 まで振れるようになりました。
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調整が大幅にズレていました。
普通、IF 調整がズレるというのはほとんどないです。
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おそらく誰かが測定器なしに適当にグルグルと調整コアを回したのだと思います。
ほぼ全てのコアがズレていました。
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感度が復活すると同時に以下の現象も直ってしまいました。
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[MUTE ON] では音が出ない
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[STEREO] ランプが点灯してもステレオ感がない
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[DEVIATION] メータが動作しない
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S メータが元気良く振れるようになり、L-03T らしい良い音が出るようになりました。
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[MUTE ON] で放送局に同調すると、[STEREO] ランプが点灯してステレオ感のある音が出ます。
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[METER] スイッチが [SIGNAL] で S メータとして、[DEVIATION] で D メータとして、元気良く振れます。
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バリコン軸に接触不良が発生している
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この現象は [1] の修理後に気が付きました。
修理前にも発生していたはずですが、マトモに受信できなかったのでわからなかったのです。
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本機は39年物ビンテージ (2022年現在) です。 バリコン軸の接触回復は必須です。
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに コンタクトグリース を塗布して防錆処置します。
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大量の緑青サビが除去できました。
結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
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-0.2〜-0.1MHz 程度の周波数ズレがある
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別項の [再調整] にてトラッキング調整して正常な範囲 (±0.1MHz 以内) に収まりました。
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フロントパネルにゴミが堆積している
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フロントパネルを分解して、できる範囲で清掃して綺麗になりました。
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[チューニングノブ] [各スイッチ] にもベットリ黄色の汚れが付着していましたが、無水アルコールで除去して綺麗になりました。
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[LOCK] スイッチの飾り枠が外れていたので、ボンドで再接着して直りました。
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電解コンデンサ交換 ・・・ 修理依頼者からのリクエスト
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交換の方針
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電源部の電解コンデンサは全数交換する。
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FM オーディオ信号が通過する電解コンデンサは全数交換する。
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使用する電解コンデンサはできるだけオーディオクラス品とする。
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部品交換リスト
用途 |
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
電源 |
C126 |
電解コンデンサ |
470uF/16V (85℃) |
電解コンデンサ |
470uF/50V (105℃) |
C127 |
10uF/25V |
オーディオ用 電解コンデンサ |
10uF/50V (FG) |
C128 |
100uF/10V (85℃) |
電解コンデンサ |
100uF/50V (105℃) |
C129 |
100uF/25V |
オーディオ用 電解コンデンサ |
100uF/25V (FG) |
C130 |
2200uF/25V (85℃) |
電解コンデンサ |
3300uF/50V (105℃) |
C132 |
10uF/25V |
オーディオ用 電解コンデンサ |
10uF/50V (FG) |
C133 |
4.7uF/50V |
4.7uF/50V (MUSE/ES) (BP) |
C136 |
470uF/16V |
470uF/25V (FG) |
C137 |
470uF/16V |
470uF/25V (FG) |
C138 |
220uF/10V |
220uF/25V (FG) |
C139 |
100uF/10V |
220uF/25V (FG) |
C140 |
2200uF/25V (85℃) |
電解コンデンサ |
3300uF/50V (105℃) |
検波 |
C75 |
電解コンデンサ |
4.7uF/25V (BP) |
オーディオ用 電解コンデンサ |
4.7uF/50V (MUSE/ES) (BP) |
MPX |
C81 |
電解コンデンサ |
4.7uF/50V |
オーディオ用 電解コンデンサ |
4.7uF/50V (MUSE/ES) (BP) |
C84 |
100uF/10V |
100uF/25V (FG) |
C87 |
4.7uF/50V |
4.7uF/50V (MUSE/ES) (BP) |
C88 |
33uF/25V |
33uF/35V (FG) |
C89 |
1uF/50V |
1uF/50V (FG) |
C94 |
1uF/50V |
1uF/50V (FG) |
C99 |
10uF/25V |
10uF/50V (FG) |
C100 |
10uF/25V |
10uF/50V (FG) |
C101 |
10uF/25V |
10uF/50V (FG) |
C102 |
10uF/25V |
10uF/50V (FG) |
オーディオ |
C117 |
電解コンデンサ |
100uF/10V (BP) |
オーディオ用 電解コンデンサ |
100uF/50V (MUSE/ES) (BP) |
C117 |
100uF/10V (BP) |
100uF/50V (MUSE/ES) (BP) |
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交換後の記録写真
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左の写真は [検波部]、右の写真は [オーディオ部] です。
いずれも [緑色] のコンデンサが交換後です。
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写真の奥側は [電源部] で、電解コンデンサを全数交換しました。
写真の手前の左側は [MPX 部] です。
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[金色] [緑色] [茶色] のコンデンサが交換後です。
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下の写真は交換前に基板に実装されていた電解コンデンサです。
再調整
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電圧チェック (VP)
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以下のように正常です。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
Q42-E |
+12V |
+12.1V |
〇 |
IC24-OUT |
+8V |
+8.04V |
〇 |
IC25-OUT |
-8V |
-7.86V |
〇 |
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調整結果
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L-03T (1号機)
に記載の手順で調整しました。
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この L-03T はあちこち調整をいじられた形跡があり、普段は触らないコアなども調整して性能を復活させました。
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例えば、PLL 検波の1次側 IFT (L25) の波形が綺麗ではなかったです。
[L25] 以外に [L22] [L24] も調整して正常に戻しました。
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高調波歪率 (1kHz) は、[MONO : 0.005% (WIDE)] [STEREO : 0.005% (WIDE)] [STEREO : 0.05% (NARROW)] で超優秀でした。
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ステレオセパレーションなどは以下の数値が出ました。
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ステレオセパレーションは L-03T にしてはやや低い感じはしますが、50dB 以上あるので問題ありません。
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その他の数値は非常に優秀です。
項目 |
IF BAND |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
53 |
52 |
dB |
NARROW |
38 |
43 |
dB |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
-78 |
-81 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (MONO) |
0 |
-0.05 |
dB |
REC CAL 信号 |
421.9 |
Hz |
-7.7 |
-7.7 |
dB |
使ってみました
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デザイン
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高級機なのに中級機の
KT-1100
とほぼ同じデザインが残念です。
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ダイヤルスケールは最前面で照明はありませんが見易いです。
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黒いダイヤルスケールと赤い指針のマッチングが良いです。
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チューニングノブはタッチセンサになっています。
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[LOCK] スイッチ ON で同調サーボロックがかかります。
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メータは斜め上方向きに取り付けられており、視線より低い位置に設置する前提です。
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感度や音質
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このクラスになると流石に良い
です。
安定度とか音質とかスペック表現できない部分が超優れています。
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感度が良く、高解像度でカチッとした超高音質です。
高域も低域もよく出ています。
S/N も良いです。
性能は超一流です。
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高解像度の音なのにハーモニー再現力もあります。
音に余裕があると言うか、この辺りが一般機との差です。