KENWOOD KT-1010U (2号機) が到着
2023年3月20日、北名古屋市の M さんより
KENWOOD KT-1010U
の修理依頼品が到着しました。
外観&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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今まであまり使用しないまま保管していました。
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使おうとしたのですが、受信が悪いです。
調整・修理をお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [56K10086] です。
電源コードからは製造年が判明しませんでした。
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[純正 AM ループアンテナ] の添付はありませんでした。
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全体に埃っぽいです。
どこで長期保管していたのだろう?
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フロントパネルの上で左から1/3くらいのところに目立つ当てキズがあります。
これ以外は問題ないです。
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リアパネルに汚れはありますが問題あいです。
AM アンテナ端子に赤サビが出ています。
F 端子と RCA 端子は問題ないです。
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天板は埃が多いですが、致命的な変形等はないです。
底板は少しサビが出ていますが問題ないです。
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電源 ON してチェック
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問題なく電源 ON でき、蛍光表示管の表示は良好で、ランプ切れはなく、ボタン操作は正常です。
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FM 受信
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AUTO チューニングすると、81.3MHz の放送が 81.1MHz で停止します。
-0.2MHz の同調ズレがあります。
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[STEREO] ランプが点灯しません。
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音は出るのですが、音量が小さく、歪っぽく、音が大きくなったり小さくなったりします。
時々バリバリという雑音も出ます。
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AM 受信
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カバーを開けてチェック
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内部は綺麗で、目視でわかる劣化部品は見当たりませんでした。
リペア
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-0.2MHz の同調ズレがある
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同調点電圧を測定すると、2.15V と限界を大幅に超えていました。
ここは調整目標値 0±20mV です。
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同調点の再調整で直りました。
これで [STEREO] ランプも点灯するようになりました。
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[音量が小さく、歪っぽい音が大きくなったり小さくなったり、バリバリ雑音も出る] 現象は、これでは直りませんでした。
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音量が小さく、歪っぽい音が大きくなったり小さくなったり、バリバリ雑音も出る
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1日がかりで原因を突きとめました。
L15 アンチバーディフィルタの故障です。
(左の写真の中央)
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型式は [L79-0162-05] で、TRIO/KENWOOD 特注品と思われ、代替品は入手不可です。
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基板から取り外し裏返してチェックすると、チタコンが腐食して真っ黒になって故障していました。
(右の写真)
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このコンデンサの抵抗を測ると 200〜600Ω ほどでフラフラしていました。
レアショートです。
コンデンサですから抵抗値は無限大が正しい。
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このフィルタの回路は以下です。
回路の C2 が不良になったのです。
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まずは、C2 の抵抗値が 200〜600Ω となっているので、音量が下がり歪む ・・・ 現象と合います。
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C2 の抵抗値が 200〜600Ω でフラフラしているので、音量が小さくなったり大きくなったりする ・・・ 現象と合います。
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C2 の抵抗値が瞬間的に変わった時はバリバリという雑音になる ・・・ 現象と合います。
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フィルタが故障したのは以下の要因と思います。
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電源を入れずに長い間放置したため、保管環境の湿度により、内部のコンデンサ腐食に至ったと思います。
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使われているコンデンサはチタコンで、湿度による腐食が発生しやすいのです。
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10年間放置した自動車のエンジンが始動できなくなるのと同じです。
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対策として L15 フィルタを取り外し、[IN] [OUT] をジャンパー線でバイパスしました。
これで直りました。
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アンチバーディーフィルタの特性については
AUDILLUSION
さんの解説が詳しいです。
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アンチバーディーフィルタの役目は、近接放送からの干渉雑音を阻止です。
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干渉するとキュルキュルとかチュンチュンという鳥の鳴き声のような雑音が入ります。
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このフィルタがなくても日本ではほとんど問題が発生しません。
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受信放送局の周波数の隣接放送が 0.1MHz とか 0.2MHz しか離れていない場合に問題になります。
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日本では放送局はスカスカで、アメリカのように林立していないので、結果的に問題が出ないのです。
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あと SCA (多重放送) での干渉問題も考えられますが、現在、日本の SCA 放送はほぼ死滅しました。
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このフィルタを交換するには ・・・
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普通には入手できないので、同じフィルタを使っているチューナから移植するしかないです。
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調べたところ、同社の [KT-747] [KT-770] [KT-1010] [KT-1010II] には同じものが使われています。
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修理依頼者にどうしたいか問い合わせたところ、[フィルタのバイパスでよい] と回答がありました。
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リアパネルの RCA 端子のハンダクラック対策
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どうしても端子のリードと基板の間で機械的なタワミを原因とするハンダクラックが発生しやすいのです。
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端子のリードと基板のハンダ付け部分に補修ハンダを行い、良好になりました。
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フロントパネルの上で左から1/3くらいのところに目立つ当てキズがある
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自動車用の艶消し黒タッチペンで補修塗りして目立たなくなりました。
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天板に埃が多い
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あまりにも汚れているので、中性洗剤で水洗いして少しマシになりました。
再調整
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電源電圧チェック (VP)
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実測値は以下のように良好でした。
VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
Q40-E |
+14V |
+13.8V |
〇 |
IC19-OUT |
+5.6V |
+5.63V |
〇 |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM はあちこち調整ズレがありましたが、再調整にて感度と音質が向上しました。
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FM の性能データは以下となりました。
問題ない数値です。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
stereo |
50 |
70 |
dB |
NARROW |
51 |
52 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
WIDE |
mono |
0.015 |
% |
stereo |
0.025 |
% |
NNARROW |
mono |
0.12 |
% |
stereo |
0.15 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
stereo |
-71 |
-67 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
WIDE |
mono |
0 |
+0.08 |
dB |
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AM は再調整により、受信感度が向上しました。
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ただし、[純正 AM ループアンテナ] の添付がなかったので、手持ちの汎用ループアンテナで再調整しています。
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AM の場合、ループアンテナも同調回路の一部なので、純正ループアンテナで使うと最高感度にならない可能性があります。
使ってみました
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デザイン
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高さが低くスリム感があります。
このスリム感はイイです。
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フロントパネルにヘアラインアルミ材を使用しており、質感は高いです。
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残念なことに、操作ボタンは質感が感じられないプラスチック製です。
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プリセットメモリは FM 8局+AM 8局 あります。
普通には十分でしょう。
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性能と音質
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FM 感度は高く、妨害波排除能力も十分あります。
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FM の音質は、歪感が少なく、輪郭ハッキリ、スッキリした音の出かたです。
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低域から高域までよく出ています。
ステレオ分離度は良く、高音質です。
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AM の感度はかなり良く、ボリュームを WIDE 側にした時の音質は結構イイです。