Triode VP-Head KIT

Triode VP-Head KIT をゲット!

2008年11月15日、私のチューナーページのファンから Triode VP-Head KIT を寄贈いただきました。 真空管方式ヘッドホンアンプのキットです。 この製品は既に生産中止になっていますが、完成品は定価39,800円、キットは定価29,800円で販売されていました。

頂戴する気になったのは、真空管と聞いてノスタルジーを感じたからです。 大昔に真空管アンプを何台も自作したことがありました。 久々に真空管アンプの特性を測定したくなりました。

左の写真は完成した VP-Head KIT です。 一緒に写っているヘッドホンは、audio-technica ATH-M9X という、その昔、少し高級だったヘッドホンです。

  1. トライオード社は自宅近く(越谷)みたい

  2. 真空管アンプ製作はもう大昔のことで、製作中によく感電しました。 その後は電圧が低くて感電しないトランジスタ&FET アンプに移行しました。 当時はまだ日本メーカーも真空管を製造しており、テレビ(白黒もカラーも。)も真空管式が多かったです。 大阪日本橋に行くと、大阪なのに「東京真空管」という真空管専門店がありました。

  3. 今でも実家に帰ると真空管がゴロゴロ転がっています。 VP-Head KIT に使われている 12AX7A と 6BQ5 は私にとってはかなり懐かしい名前で、実家に何本もあると思います。 一般には 6BQ5 より、複合管の 6BM8 使用アンプのほうが多かったと思います。

  4. ヘッドホンというと出力が数100mW もあれば十分だと思うのですが、VP-Head KIT ではなぜ 6BQ5 を使っているのでしょうね。 5極出力管で数Wは出せる球(たま)です。

  5. トランジスタアンプは調整しないと良い音が出ませんが、真空管は無調整でもそこそこの音が出やすいです。 (特性が甘いので歪が目立ちにくいとも言う。奇数次高調波歪が出にくい。) アマチュア向きですね。 ここの所をスペクトラムアナライズして科学的に分析してみたい。

  6. Tube Data Sheet Locator という真空管データベースサイトありました。



回路図のチェック

  1. 片チャンネルあたり「12AX7A の3極管で電圧増幅+6BQ5 の3結接続で電力増幅」の構成です。 この回路図は私が新たに CAD 引きしたものです。 右の回路図をクリックすると原寸の pdf ファイルが開きます。

  2. 6BQ5 のカソード抵抗に電解コンデンサが入っておらず、この段だけでも NFB がかかっています。 全体にも NFB がかけられており、ゲインは13倍(22.3dB)に設定されています。

  3. 6BQ5 プレート電圧が130V 程度と低く、かなり余裕を持った使い方で、通常の半分くらいです。 このため、出力は最大1W くらいと思われます。 ヘッドホンには十分です。

  4. 通常はプレートが焼けるギリギリまでプレート電圧を上げ(6BQ5 の場合250V 以上)て出力を稼ぐのですが、ずいぶん軽い使い方です。 よく言えば音質重視、私から見れば勿体無い使い方に思えます。 この程度の出力でよければ、6BQ5 のような高出力管を使う必要はなく、複合管 6BM8 でも十分です。 やはり音質重視???

  5. SW2 にて出力インピーダンスを LOW / HIGH に切り換えできます。 この切り換えでは出力トランスの2次側巻線を切り換えています。 組立説明書には「LOW で 15〜50Ω、HIGH で 50〜500Ωのヘッドホンに対応」と書かれています。

  6. 出力インピーダンスを LOW /HIGH と切り換えても、このアンプ出力は NFB ループに組み込まれているので、ゲインは変わりません。 (NFB 量は変わります。)



キットのチェック

  1. 以下の写真はキットの内容です。 これらのパーツを組み立てることになります。



  2. 製造後10年間もデッドストックだったようです

  3. ケース色はモスグリーンです。 長い間ビニール袋に入っていたため、塩ビ材の転写が発生しています。

  4. 電源トランスと出力トランス×2個が一番重い部品です。 外観は全然高級にみえないです。

  5. 真空管 6BQ5 (EL84) はロシアの SOVTEK 社製で1998年製造品でした。 12AX7A はどこの製品か不明(マーキングがない。)ですが、中国製らしいです。

  6. このキットの主要回路部はプリント基板に組み込まれています。 基板はガラスエポキシでかなりマトモです。 信号取り出し部分にハトメが使われていますが、ハトメは真ちゅう製なので、プリントパターンと接触不良を発生しやすいです。 よってハンダ付けはハトメの留め部とパターンの間に十分ハンダを流してやる必要があります。

  7. このキット、余程、組み立てる人を信頼していないのでしょうか!?



組み立てました

  1. プリント基板への部品の取り付けは簡単でした。 特に悩むようなことはなかったです。

  2. フロントパネルをメインシャーシに取り付けてから、ボリュームやトグルスイッチを取り付けるのですが、これが穴がきつくて入らない。 若干、ヤスリがけして穴を大きくして取り付けました。 ヤスリがけをしていて気が付きました。 シャーシは鉄製ですが、フロントパネルはアルミ製です。 どちらも分厚つくて安っぽい塗装がしてあるので同じように見えてしまいます。

  3. 2個ある出力トランスをシャーシに取り付けます。 シャーシ上に1個+シャーシ内に1個取り付けます。 この取り付けは超難しい! です。 と言うのは、シャーシを挟んで2個ある出力トランスの脚を同一ネジ4本で上下同時に固定するのです。 ネジは刺さるのですがこれに対応するナットが、狭くて狭くて指が入らず、ネジとなかなか噛み合わないのです。 私は極細のネジ&ナットキャッチャーを使ってやっとネジ止めしました。 ちなみにシャーシ上の出力トランスは左チャンネル用で、シャーシ内は右チャンネル用です。

  4. 電源トランスを取り付けます。 これは簡単です。 ただし、方向に注意する必要があります。 間違うとトランス化粧カバーが取り付けられなくなります。 トランスからのケーブルが内側を向くようにしたらOKでした。

  5. ここまで終ると、あとはケーブル配線だけです。 何本も配線しなければならないので、忍耐と正確さが要求されます。

  6. 完成! ・・・ 動作チェック

    1. 電源コンセントを差し込む前に、AC100V の配線が合っているか、シャーシへの漏電がないかテスターでチェックします。 OKなら電源投入します。

    2. しばらくして真空管のヒータが柔らかい橙色に輝きました。 OKです。

    3. 入力に FM チューナーを、出力にヘッドホンをつなぎました。

    4. ありゃ〜! 左チャンネルから音が出ません。 右チャンネルは正常ですが、ブーンという割と大きなハム音が聞こえます。

    5. 調べてみると、左チャンネルの 6BQ5 は動作しています。 すると、12AX7A の左チャンネル回路が不具合だろう。 12AX7A の1ピン(プレート)が140V で、3ピン(カソード)が70V でした。 左チャンネルの 12AX7A 回路のグランドが浮いていると判明しました。

    6. プリント基板のモードを調べると、R13 と C7 で構成される平滑回路のグランドも、左チャンネルのグランドと一緒に浮いています。 ハム音が聞こえるのもこのためと判明しました。 このことから、そもそもの要因はプリント基板のパターン設計不良だと思います。

    7. 左チャンネルのグランドをメイングランドに接続して直りました。 ハム音も出なくなりました。

  7. 見事!完全動作しました・・・パチパチパチ!!!



使ってみました

  1. 右の写真は部屋を真っ暗にして真空管のヒータの明かりだけで撮影したものです。 ぼんやりとした暖かい光です。 真中が中華三千年の明かりで、両サイドがピロシキの明かりです。

  2. 高級感がないケースですが、手作り感だけはあります?! ボリュームツマミは無垢のアルミ材ですが、塗装されているので高級感はしないです。

  3. 思ったより小さく、置き場所もなんとかなります。

  4. VP-Head KIT は RCA 端子の上下位置がおかしいです。 上が右チャンネルで、下が左チャンネルです。 一般のアンプなどと上下が反対です。 おかげで、赤の RCA 端子(赤の端子は通常、右チャンネルです。)を間違って下側に付けてしまいました・・・正規に手直しするのは大工事になるので、このまま使います。

  5. 無調整でこの音はかなり良いと思います


  6. 電源 ON しても音が出始めるのに20秒程度かかります。 また、電源 OFF しても7秒程度は音が出ています。 思い出しました・・・これが真空管だったんですね。

  7. この VP-Head KIT の特性実測結果は オーディオアンプの特性を測定する にあります。



付属ドキュメント

  1. VP-Head KIT 組立説明書 (平成10年12月25日 第4版)

  2. VP-Head KIT 組立説明書 別紙