YAMAHA T-2 (5号機) が到着!
2023年6月1日、神奈川県三浦市の N さんから
YAMAHA T-2
の修理依頼品が到着しました。
FM 専用機
で定価13万円の高級チューナです。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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左チャンネルの音が出ません。
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メータ照明に一部ランプ切れがあります。
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メータ指針の塗装がボロボロになっています。
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右窓のデジタル表示が出ません。
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外観
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製造シリアル番号は [1111] で嘘っぽいです。
本来は5桁あるはずで、番号を打ち直している可能性があります。
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電源コードの製造マーキングよりは製造年は不明でした。
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筐体の正面部分は綺麗です。
背面部分は綺麗で、端子に潤滑オイルが塗布されています。
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筐体の天板部分のリア側に薄いサビが出ている状態で、ピカッと光る光沢はありません。
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同調ノブのエッジ部に所々僅かなキズがあります。
そう目立ちませんが。
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[SQ メータ] [T メータ] とも指針の塗装が風化してボロボロ状態です。
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電源 ON してチェック
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電源が入り、周波数表示器と操作ボタンは良好です。
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到着して初めて電源 ON した時は音が極小でした。
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[REC CAL] ボタンを押しても蚊の鳴くような小さな音しか出ませんでした。
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5分くらい放置しておいたら、なぜか?正常なレベルの音が出るようになりました。
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この後、電源 OFF/ON してみても正常です。
何だったのだろう?
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[左チャンネルの音が出ません] は確認できず、両チャンネルとも音が出ます。
でも上記の現象と関係ありそうな気がします。
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指針の右側が暗いです。
指針は2個のランプで照明していますが、右側が切れていると思います。
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デジタル表示器は全く表示しません。
故障しています。
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受信でき [STEREO] ランプが点灯しますが、ステレオ感がやや弱いです。
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指針が指す周波数は全体的に放送局の周波数より +0.2MHz 高いです。
周波数ズレしています。
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カバーを開けてチェック
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ほぼ密閉構造のため、基板は非常に綺麗です。
目視で劣化がみられる部品は無さそうに思いました。
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使用 IC のロット番号より、本機は [1977年製造品] とわかりました。
リペア
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デジタル表示器が全く表示しない
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基板の裏側を確認したところ、右の写真のように [TR239] 2SD234 パワートランジスタが放熱板から外れ、ブラブラしていました。
恐ろしい状態!
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写真のアルミ板が放熱板で、2SD234 と絶縁マイカを介して茶色のプラスチックネジで留められていたのですが、そのネジが破断したのです。
製造時にネジを強く締め過ぎた???
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2SD234 は完全に故障していました。
このトランジスタはデジタル表示用の電源 (+5V) を供給しています。
デジタル表示が出ない原因はこれです。
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2SD234 は放熱されず限界まで過熱して故障したのに間違いないのですが、この壊れる過程が心配です。
最悪、コレクタ〜エミッタ間が短絡してから故障したとすると、+8V くらいの過電圧がデジタル表示部にかかります。
デジタル表示部は TTL で構成されているので絶対最大耐圧が +7V しかなく、+8V がかかると TTL IC 全部が壊れます。
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上記の心配があったので、2SD234 を交換する前に、実験用電源装置を使って試験しました。
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+5V をかけて試験してみたところ、TTL IC は無事でした。
良かった!
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[2SD234]→[2SD1266] に交換して直りました。
周波数をちゃんと表示します!
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[2SD1266] は絶縁モールドタイプなので、絶縁マイカは不要で取付ネジも M3 金属ネジで固定できました。
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プラスチックネジではないので、もう破断する心配はありません。
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照明ランプ全数交換
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予想通り、指針照明用右側ランプが切れていました。
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1個切れるということは残りのランプもそろそろ寿命です。
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[指針用]×2個、[ダイヤル用]×1個、[メータ用]×1個の全数4個交換しました。
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使用ランプは右の写真の 12V/80mA の麦球です。
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麦球のため配線が必要で結構手間がかかりましたが無事交換できました。
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[SQ メータ] [T メータ] とも指針の塗装が風化してボロボロ
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メータを分解して、まずは指針の古い塗装を剥しました。
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自動車用のタッチペン [トゥルーレッド] で再塗装しました。
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右の写真は再塗装作業中です。
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最後に指針位置を調整してから耐熱ポリミイドテープでメータを封印しました。
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これで直りました!
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指針を塗り直しても見辛いです。
バックが黒だからです。
バックを変更するのは簡単で、黄色か白色にすると見やすくなると思いますがリクエストがなかったのでやっていません。
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到着して初めて電源 ON した時は音が極小だった
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その後は再現しないので、推定で直すしかなさそうです。
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蚊の鳴くような極小音だったので、まず間違いなくミューティング状態だったと思います。
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しばらく放置したら正常音になったので、Power Muting が誤動作していたと考えます。
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右の回路図は Power Muting 回路で、TR245 のコレクタからミューティングをかけます。
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電源 ON/OFF の瞬間だけ TR245 から +12V が出て、それ以外はオープンコレクタ状態です。
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一番怪しいのはトランジスタで、次に怪しいのは電解コンデンサで、次の部品を交換しました。
部品番号 |
交換前 |
交換後 |
備考 |
TR245 |
2SB544 |
2SA684 |
トランジスタ |
C282 |
10uF/25V (85℃) |
10uF/50V (105℃) |
電解コンデンサ |
C284 |
100uF/16V (85℃) |
100uF/25V (105℃) |
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修理依頼者よりの [左チャンネルの音が出ません] もこれだった可能性があります。
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推定対策ですが、当たっていると思うのですが ・・・ これで修理依頼者に様子をみていただこうと思います。
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一晩電源 OFF 状態にしてから朝電源 ON して再発しないので、直っているような気がします。
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ハンダクラック対策 ・・・ 予防保守
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T-2 のコネクタはピンヘッダ構造になっており、長〜いピンに対してハンダ付け部分が極小です。
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極小ハンダ付け部分にケーブルからストレスがかかり、ハンダクラックがおこりやすいです。
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該当する CN#4, CN#5, CN#6 コネクタを補修ハンダ付けしました。
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バリコン軸の接触不良回復
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ここまでの修理で再調整を開始しましたが、まだおかしいのです。
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フロントエンドを再調整しても少しハンマリングすると調整がズレるのです。
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原因はバリコン軸に接触不良が発生しているのです。
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バリコン軸を清掃するにはフロントエンドカバーを外す必要があり、以下のようにします。
かなり手間がかかります。
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フロントエンドユニットを留めている黒いネジ×3本を外します。
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フロントエンドユニット若干移動して、フロントエンドカバーを留めているシルバーネジ×3本を外します。
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フロントエンドカバーとバリコンとのハンダ付けを外します。
100W くらいのハンダゴテが必要です。
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これでやっと右の写真のようにフロントエンドカバーを外せます。
組立は逆の手順です。
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接触不良回復作業
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに
CRC 5-56
を塗布して防錆処置します。
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以上で直りました!
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+0.2MHz の周波数ズレがある
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OSC トラッキング調整で直りました。
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ただし、バリコン精度以上には調整できず、どの周波数でも指針が正しく示す訳ではないです。
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本機の場合、76MHz 付近の精度が悪かったので、78〜90MHz で±0.1MHz 以内に入るよう調整しています。
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ステレオ感が弱い
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再調整で直りました。
ステレオセパレーションが上がり音の解像度および音そのものが良くなりました。
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交換部品の記録
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交換前に基板に実装されていた部品です。
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左から [デジタル表示用パワートランジスタ] [照明ランプ] [Power ON/OFF Muting トランジスタ] [Power ON/OFF Muting 電解コンデンサ] です。
再調整
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電圧チェック (VP)
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[#4] [#5] は [チューナ基板] に実装されたコネクタです。
VP |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
#4-4pin |
+5V |
+4.94V |
〇 |
|
#5-5pin |
+13V |
+13.9V |
〇 |
|
#5-6pin |
-13V |
-12.9V |
〇 |
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R205 (470Ω) 右側 |
+13.2V |
+13.2V |
〇 |
[REC CAL] OFF にて測定 |
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FM 受信部の調整
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調整結果
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以下のような良好な性能になりました。
項目 |
IF MODE |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
LOCAL |
stereo |
56 |
54 |
dB |
DX |
28 |
28 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
LOCAL |
mono |
0.10 |
% |
stereo |
0.23 |
% |
DX |
mono |
0.67 |
% |
stereo |
0.67 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
LOCAL |
stereo |
-57 |
-55 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
LOCAL |
mono |
0 |
+0.04 |
dB |
REC CAL |
LOCAL |
mono |
304.7 |
Hz |
-3.5 |
dB |
使ってみました
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修理&再調整が終わって
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ステレオセパレーションや高調波歪率が大きく向上し、音がかなり良くなりました。
解像度が上がった感じです。
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デザイン
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まずはズッシリ重たいことに驚きます。
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全体が厚いアルミ材で出来ており、とっても高級感があります。
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YAMAHA らしい優れたデザインです。
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操作性
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一般的な操作は直感で判ります。
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チューニングノブの動きは高級機らしい重みがあってスムーズです。
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アンテナ端子は F 端子のため、妨害電波の混入を防げます。
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FM 受信
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妨害波排除能力は強力です。
出てくる音は解像度感のあるシッカリした音です。