SONY ST-S333ESA (4号機) が到着
2022年5月20日、茨城県水戸市の N さんより
SONY ST-S333ESA
の修理依頼品が送られてきました。
到着した状態のまま、状態チェック
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依頼者のコメント
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ヤフーで、完動品税込み1万5千円で購入しました。
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動作は確認しましたが、未調整品なので調整をお願いします。
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アンテナは2階のベランダにヘンテナを立てました。
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受信感度がイマイチで、受信レベルは半分が最高です。
アンテナが悪いのかもわかりません。
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あと、コンデンサとかも見て欲しいです。
交換したほうががよいものは交換して欲しいです。
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外観
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フロントパネルの中央上にやや目立つキズがあります。
これ以外にはキズは見当たらず、全体に綺麗な逸品です。
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サイドウッドにキズやハガレはなく、非常に綺麗です。
リアパネルの端子類は綺麗です。
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製造シリアル番号は [201860] です。
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電源 ON にて確認
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電源は問題なく入り、ディスプレイの輝度は十分です。
各ボタンやノブの操作は正常です。
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FM 受信
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特に問題はなく、ステレオにもなります。
オートチューニング動作も問題ありません。
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心配されている感度について (再調整前の測定)
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72dB の電波で S メータがフル表示になりました。
スペックは 70dB でフル表示ですから、そう悪くないと思います。
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S メータはゼロ表示を含めて全部で11レベルあります。
半分のレベル5では 50dB でした。
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依頼者宅では半分しか振れないとの事ですから、アンテナ入力 50dB くらいになっているのでしょう。
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ステレオセパレーション (再調整前の測定)
項目 |
IF BAND |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
42 |
42 |
dB |
NARROW |
54 |
44 |
dB |
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AM 受信
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特に問題なく受信できます。
オートチューニング動作も問題ありません。
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カバーを開けて内部を目視チェック
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内部は綺麗でした。
軽くブロアする程度でゴミ掃除できます。
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使用 IC のロット番号より、この ST-S333ESA は1992年製と判明しました。
電源ケーブルの製造マーキングも1992年でした。
リペア
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FUSE 抵抗のチェック
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許容範囲を±20%として、判定が×の抵抗を交換しました。
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[R921] が酷い状態になっていました。
このまま放置すると間もなく断線すると思います。
回路 |
部品番号 |
標準値 (Ω) |
実測値 (Ω) |
判定 |
対策 |
FM FRONT END |
R119 |
100 |
107 |
〇 |
|
WOIS |
R203 |
10 |
10.2 |
〇 |
|
R207 |
10 |
10.1 |
〇 |
|
R211 |
10 |
10.0 |
〇 |
|
R227 |
10 |
10.3 |
〇 |
|
IF |
R259 |
100 |
105 |
〇 |
|
DET |
R274 |
10 |
10.2 |
〇 |
|
R279 |
220 |
176 |
△ |
220Ωに交換 |
R292 |
100 |
103 |
〇 |
|
MPX |
R301 |
10 |
10.1 |
〇 |
|
R327 |
47 |
48.9 |
〇 |
|
AM |
R403 |
220 |
241 |
〇 |
|
R410 |
150 |
157 |
〇 |
|
PLL |
R511 |
220 |
283 |
× |
220Ωに交換 |
R516 |
180 |
200 |
〇 |
|
CONTROL |
R626 |
47 |
48.0 |
〇 |
|
POWER SUPPLY |
R910 |
22 |
22.4 |
〇 |
|
R921 |
220 |
453 |
× |
220Ωに交換 |
R931 |
180 |
219 |
〇 |
|
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電解コンデンサ等の予防交換
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特に問題となるような事象はなかったのですが、修理依頼者のリクエストで電解コンデンサ等を予防交換しました。
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交換方針
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プリセットメモリバックアップ用の電気二重層コンデンサは劣化を評価しにくいので交換する。
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オーディオ信号が通過する電解コンデンサは交換する。
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電源回路の電解コンデンサは熱にさらされて劣化しやすいので交換する。
熱で電解液が蒸発する。
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調整時に劣化を感じた電解コンデンサは交換する。
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実際に交換したのは以下の通りです。
部品番号 |
オリジナル |
交換後 |
用途 |
備考 |
C324 |
22uF/63V |
22uF/63V |
オーディオ出力 (L) |
オーディオクラス電解コンデンサに交換 |
C325 |
22uF/63V |
22uF/63V |
オーディオ出力 (R) |
C330 |
100uF/63V |
100uF/63V |
PLL 検波出力 |
C605 |
0.1F/5.5V |
1F/5.5V |
プリセットメモリ バックアップ |
電気二重層コンデンサ 10倍の容量になった |
C905 |
2200uF/63V |
(未交換) |
+15V 電源回路 |
オーディオクラス電解コンデンサが 見つからなかった |
C906 |
100uF/25V |
100uF/25V |
オーディオクラス電解コンデンサに交換 |
C907 |
1000uF/63V |
1000uF/63V |
C915 |
470uF/35V |
470uF/50V |
LA5667 マルチ電源回路 |
C916 |
47uF/10V |
47uF/25V |
C917 |
100uF/16V |
100uF/25V |
C922 |
330uF/50V |
330uF/50V |
+30V 電源回路 |
C923 |
47uF/50V |
47uF/50V |
C924 |
47uF/50V |
47uF/50V |
C932 |
330uF/50V |
330uF/50V |
-17V 電源回路 |
C933 |
47uF/35V |
47uF/50V |
C934 |
47uF/35V |
47uF/50V |
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C605 の電気二重層コンデンサを 0.1F→1F へと10倍の容量に交換しましたが ・・・
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取扱説明書には、(プリセットメモリは) [電源を切った状態でも、約1ヶ月間保存されます] と記載されています。
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今回の交換で容量が10倍になったので、理論上は10ヶ月バックアップ保持できることになります。
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でもこれは机上の計算で、実際には数ヶ月でしょう。
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ハンダクラック対策
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ST-S333ES シリーズでは銅製のアースバーが敷かれています。
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これはこれで素晴らしいのですが、経年変化でアースバーでハンダクラックが発生しやすいのです。
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アースバーに補修ハンダを行いました。
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リアパネルの端子類
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どうしても端子のリードと基板の間で機械的なタワミを原因とするハンダクラックが発生しやすいのです。
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端子のリードと基板のハンダ付け部分に補修ハンダを行いました。
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全体に軽く清掃
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ディスプレイ窓とサイドウッドに輝きが足りないと思われたので、
マルチクリーナ D413
で清掃しました。
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結果、ディスプレイ窓とサイドウッドに輝きが戻りました。
ついでに、その他の部分も清掃しました。
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拭きとった
ウェス
には黄色い汚れが付いたので、タバコのヤニと思います。
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交換した部品の記録写真
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左の写真は、元実装されていた部品です。
[電解コンデンサ]×14個、[電気二重層コンデンサ]×1個、[抵抗]×3個
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右の写真で
〇
で囲んだ金色の電解コンデンサが今回交換したオーディオクラス電解コンデンサです。
再調整
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電源電圧チェック
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特に問題なく良好です。
VP |
表示電圧 |
標準電圧 |
実測電圧 |
判定 |
備考 |
JW88 |
+30V |
+30.9V |
+30.7V |
〇 |
PLL |
JW89 |
+15V |
+16.3V |
+14.9V |
〇 |
AUDIO |
JW145 |
-17V |
-17.5V |
-17.2V |
〇 |
FL |
JW213 |
+13V |
+13.6V |
+13.1V |
〇 |
DIGITAL |
JW220 |
+5V |
+5.6V |
+5.65V |
〇 |
DIGITAL |
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調整結果
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ST-S333ESA (1号機)
に記載の調整手順にて再調整しました。
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同調点で基準 20mV に対し、523mV と大きくズレていました。
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PLL 検波 NULL で基準 20mV に対し、206mV と大きくズレていました。
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再調整後は以下のように非常に良好な数値です。
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ステレオ時の高調波歪率は 0.012% (WIDE 1kHz) でした。
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ステレオセパレーションが調整前より 15〜19dB (6〜9倍) ほど良くなりました。
項目 |
IF BAND |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
57 |
61 |
dB |
NARROW |
46 |
40 |
dB |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
-74 |
-76 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (mono) |
0 |
0 |
dB |
CAL TONE 信号 |
419.9 |
Hz |
-6.81 |
-6.86 |
dB |
使ってみました
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全体的にゴールド基調のデザイン
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フロントパネルはアルミ材で、ヘアライン仕上げです。
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サイドウッドは鏡面仕上げでラウンド加工されています。
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FM 受信
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感度も S/N も一級品です。
微弱電波もしっかり捉えます。
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解像度がある素晴らしい音。
現代の安物チューナーとは全く異次元の音です。
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FM 帯域の中心 83MHz での [S メータレベル] と [アンテナ入力] の関係は以下となりました。
良好に受信するには [S メータレベル 7] 以上が表示されている必要があるようです。
S メータレベル |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
アンテナ入力 (dB) |
〜25 |
26〜29 |
30〜39 |
40〜49 |
50〜54 |
55〜58 |
59〜64 |
65〜68 |
69〜71 |
72〜 |
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AM 受信
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感度は良いです。
ループアンテナでしっかり入感します。