LUXMAN T-12 (2号機) が到着
2023年1月31日、埼玉県入間市の H さんより
LUXMAN T-12
の修理依頼品が到着しました。
FM 専用機で
定価96,000円
の高級チューナです。
クリスタルロック方式
です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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受信・出力等に問題は見られず使用していますが、診ていただきたい箇所が二つあります。
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時間経過で受信感度が低下
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電源投入直後5ポイントのシグナルランプが全灯している状態が時間経過とともに2〜3ポイントまで低下します。
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[Quartz off] ボタンが押し込めない(戻らない)
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押しても引っ掛かりがなく、横から見て見るとオンとオフの中間位置になっています。
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外観
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製造シリアル番号は [D8601980] で、電源コードの製造マーキングより [1976年製造品] とわかりました。
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フロントパネルを真正面からパッと見は綺麗です。
リアパネルも綺麗で、端子類にも輝きが残っています。
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ただし、よく見るとフロントパネルの上側エッジ部分に細かいキズが多く、天板にも所々にスレがあります。
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[quartz off] スイッチは ON/OFF 中途半端な位置になっています。
操作してもカチッとした感触がありません。
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電源 ON してチェック
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ランプ切れはありません。
[quartz off] 以外のスイッチはそれなりに動作します。
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電源は入り、FM 放送もステレオ受信でき、音も問題はなさそうです。
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LED による S メータ表示は電源 ON 直後はフルの5ポイント点灯しましたが、30分くらいで3ポイントに下がりました。
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SSG より電波を送り込んでチェックすると、50dB 以下になると S メータ表示がゼロになります。
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感度が大きく低下しています。
おそらく、S メータ表示が時間と共に低下する現象の主原因です。
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カバーを開けてチェック
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基板には少しゴミが付着していますが、綺麗なほうです。
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ダイヤルパネル照明用フィラメントランプのガラス部分が黒くなっており、寿命が近いと思います。
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フィラメントランプは高さの低い [T10 12V 3W (0.25A)]×2個で、現在では入手困難です。
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修理依頼者は LED 化するより電球色のままがよいとのことで、今回は処置しません。
リペア
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[quartz off] スイッチは ON/OFF 中途半端な位置になっている
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[quartz off] スイッチを押し込むと [カチッ] という音が聞こえます。
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押し込んだ状態でスイッチの先端を爪先で弾くと、正常位置まで飛び出します。
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スイッチ自体は基本的には生きています。
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おそらく内部の接点のサビで動きが重くなっていると思われます。
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修復作業
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大きく感度低下している
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あちこち調べましたが、最終的に
フロントエンド故障
とわかりました。
重症です!!!
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RF 初段コイルのコアに調整棒を入れて揺すると、S メータのレベルが大きく変わるのです。
何かおかしいです。
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フロントエンドのどこが故障しているのか調べるためには、フロントエンドの上カバーを外す必要があります。
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フロントエンドは高さの低い筐体の狭い場所に余裕のないギリギリの実装となっています。
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このため、フロントエンドの上カバーを単独で外せないのです。
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こうなると、フロントエンドを取り外すしかないです。
当然、糸掛け機構のプーリーも外すことになります。
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これ!大仕事です!!!
ものすごい時間がかかりました。
疲れました。
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左の写真は、フロントエンドを取り外し、上カバーを外して、RF 初段を眺めたものです。
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右の写真は RF 初段コイルの近辺です。
故障は2箇所です。
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赤〇の部分でハンダクラックが発生しています。
クラックというレベルではなく断線です。
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だから、コアに調整棒を入れて揺するとクラック部が導通したり断線したりして感度が変わるのです。
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コイルの白いボビンが割れて一部欠損しています。
ボビンのプラスチックが経年変化でボロボロになっています。
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左の写真は RF 初段部分の修理後です。
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ハンダクラック部分は補修ハンダ付けして直りました。
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ボビンは修理のしようがないので、これ以上割れが進まないよう、ポリミイドテープを巻いて補強しました。
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ポリミドテープは280℃の耐熱性のある高級品で、経年変化しません。
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右の写真は修理が終わったフロントエンド全景です。
この写真をクリックすると大きな画像が表示できます。
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T-12 の場合、滅多にフロントエンドを取り外すことはないので、記念写真です。
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フロントエンドにはプリント基板は使われておらず、全て空中配線的に作られています。
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フロントエンド修理後、大きく感度が上がった (数10倍) ことが確認できました。
再調整
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電圧チェック (VP)
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以下のように良好でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
[電源基板] 10pin |
+15V |
+14.7V |
〇 |
[電源基板] 11pin |
-15V |
-14.4V |
〇 |
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調整結果
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T-12 (1号機)
に記載の手順で再調整しました。
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FM ステレオセパレーションなどは以下となりました。
良好な数値です。
項目 |
IF BAND |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
wide |
stereo |
66 |
62 |
dB |
narrow |
33 |
35 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
wide |
mono |
0.06 |
% |
stereo |
0.06 |
% |
narrow |
mono |
0.23 |
% |
stereo |
1.5 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
wide |
stereo |
-78 |
-82 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
wide |
mono |
0 |
0 |
dB |
test tone 信号 |
wide |
mono |
421.9 |
Hz |
-6.1 |
-6.1 |
dB |
使ってみました
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デザイン
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非常に美しいチューナーです。
LUXMAN デザインは優美です。
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眺めたり触ったり
ウットリ
します。
オブジェとしての価値も十分です。
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フロントパネルはヘアラインアルミで 5mm 厚で、質感抜群です。
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ダイヤルスケールと指針は美しいです。
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薄型なのに、ズッシリとした高級品らしい重さがあります。
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感度と音質
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クォードラチュア検波なのにすごく音が良いです。
フロントエンドや IF 回路が豪華で位相特性が良いからだと思います。
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刺激のない豊潤な音質です。
特に低音が豊かですが、高音もよく出ています。
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感度もとても良く、デザインや質感と相まって満足度の高いチューナーです。