KENWOOD L-03T (3号機) が到着
2022年12月5日、埼玉県入間市の H さんから
KENWOOD L-03T
の修理依頼品が到着しました。
定価12万円
の
FM 専用チューナ
です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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通電・受信・出力 問題ありません。
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同調点のズレ 0.7MHz ほどの受信同調点のズレがあります。
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電源 OFF 時に受信していた放送局が電源 ON 時に STEREO 受信出来ない。
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STEREOインジケータは点灯しません。
出力される音声もモノラルです。
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しかしチューニングダイヤルを回し、別の放送局を受信していくと STEREO インジケータが点灯する局を見つけられます。
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この状態となれば他の局も順次 STEREO 受信が可能となり、一度復活すれば再びモノラルに戻ることはありません。
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これは電源 ON 後、暫く時間を置くことで STEREO 復活となることなのかと思いましたが、ちょっとわかりません。
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[IF BAND] [FM RF SEL] 切り替えでボツボツというノイズが入ったり音質が著しく低下(こもったような音)になります。
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[MUTE ON] では音声出力が消失したりする場合もあります。
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上記切り替えファンクションでではノーマル状態であれば異常はありません。
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ただし、本来の性能が発揮され、L-03T の魅力である優秀な再生音が出力されているのかわかりません。
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40年も昔の機械であるのでカタログ性能がそのまま維持されているとは考えておりません。
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現状レベルで最良の状態に復活させていただけないかと。
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見た目においては傷・汚れがなくとても綺麗な機体です。
今後も大事に扱っていきたいと思っております。
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外観
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製造シリアル番号は [31000093] で、電源コードの製造マーキングより [1983年製造品] とわかりました。
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ビックリするほど超綺麗な逸品です。
新品と言ってもよいくらいです。
こんな綺麗な L-03T は初めてです。
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[フロントパネル] [リアパネル] [天板] [底板] 全てが超綺麗です。
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リアパネルの端子類はピカピカ輝いており、状態は極めて良好です。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく入りました。
ランプ切れはありません。
メータ照明だけがフィラメントランプで、それ以外は LED です。
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[MUTE ON] [WIDE] [DIRECT] ポジションで FM 受信は正常で [STEREO] ランプも点灯します。
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この状態から [NARROW] にすると S メータの振れが 0.5 程度に著しく下がり、音が出ません。
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上の状態から更に [MUTE OFF] にすると音は出るのですが、物凄い歪だらけの音です。
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おそらく、これが修理依頼者が言う [音質が著しく低下] でしょう。
IF NARROW 回路の故障
です。
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しばらく電源 ON のまま使っていたら、[STEREO] ランプが点かなくなりました。
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電源 OFF→ON、または [REC CAL] ON→OFF でこの現象が出やすいです。
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修理依頼者のコメント通りです。
ステレオ検出回路の故障
です。
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80MHz の放送が 80.2MHz、89.7MHz の放送が 89.6MHz で受信します。
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この機種のバリコン精度では ±0.1MHz 程度はスペック内と思うので、ややトラッキングズレしているようです。
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修理依頼者は 0.7MHz 程度のズレと言われていますが、目盛の読み間違いではないでしょうか?
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[REC CAL] スイッチ ON で録音用テスト音が正常に出ます。
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カバーを開けてチェック
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本機は誰かが内部をいじくっています。
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綺麗な外観と反対に基板はそれほど綺麗ではありません。
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基板を洗浄した跡があります。
特に問題はないと思います。
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右の写真はフロントエンドの OSC バリコンの辺りです。
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青いトリマコンデンサが外付けされています。
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本来のトリマコンデンサはフロントエンド基板内で除去されており、処置としては正しいです。
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ただ、トリマコンデンサの半田付け状態が雑です。
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内部がいじられているので、調整を根本的にやり直さないとダメかもしれません。
普通は調整不要ポイントも確認が必要。
リペア
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IF NARROW 回路の故障
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右の回路図は WIDE/NARROW 切換部です。
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ダイオードスイッチにて WIDE/NARROW を切り換えます。
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WIDE 時は以下のように IF 信号が通過します。
[D6]→[L11]→[L12]→[D9]
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NARROW 時は以下のように IF 信号が通過します。
[D7]→[CF1]→[Q6]→[CF2]→[D8]
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NARROW 時の回路部品を一品ずつ調べました。
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結果、CF1 (4.5MHz) が故障していました。
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故障モードは [内部断線] です。
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セラミックフィルタの故障に遭遇するのは初めてです。
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この故障は、前にいじった誰かさんも気付いていたように思われました。
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基板の裏側を見ると、[L14] [L15] [Q2] を一旦取り外した形跡がありました。
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結局、直せなかったのでしょう。
[VR1] を最大にして誤魔化していました。
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対策
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本来はこのセラミックフィルタを交換したいのですが、既に同じ部品は入手不可です。
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右の写真は基板に実装されていた故障セラミックフィルタ CF1 です。
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今回は仮対策ですが、完璧に直す場合は L-03T か KT-2200 のジャンク品 (不動で可) を入手して、この部品を移植するしかありません。
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代案として [CF1] を [510PF コンデンサ] で置き換え (バイパス) しました。
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NARROW 時の選択度は少し悪くなりますが、以下の理由で特に問題はないと思います。
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まずは、WIDE の選択度は今まで通りです。
普通は WIDE で使っているはず。
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高級チューナはそもそも NARROW で使うことはありません。
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NARROW ではステレオセパレーションと歪率が大きく悪化するので、使わないです。
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普通、NARROW にしないと受信できないような放送は受信しないと思います。
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メーカは、スペック競争で [選択度が良いのだよ] とアピールしたいだけと思います。
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日本ではアメリカのように放送局が林立していないので、選択度もそれほど要らないです。
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ステレオ検出回路の故障
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MPX VCO (VR6) の調整ズレでした。
再調整で直りました。
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よって、ここでの部品交換はありません。
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外付け OSC トリマコンデンサの半田付け状態が雑
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半田クラック対策
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本機は39年物ビンテージ (2022年現在) です。
半田クラック対策は必須です。
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リアパネルにある端子類のリード〜基板には常に曲げストレスがかかっているので半田クラックが発生しやすいです。
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端子類のリードと基板の半田付け部を補修半田付けしました。
大型部品も同様に補修半田付けしました。
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バリコン軸の接触不良回復
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本機は39年物ビンテージ (2022年現在) です。 バリコン軸の接触回復は必須です。
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エレクトロニッククリーナ
を軸受けに噴射し何度もバリコン羽を動かすと緑青サビが湧き出てきます。
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湧き出た緑青サビを爪楊枝で丹念に落とします。
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[1] と [2] を何度も何度も繰り返します。
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仕上げに、軸受けに コンタクトグリース を塗布して防錆処置します。
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大量の緑青サビが除去できました。
結構手間がかかりましたが、以上で回復しました。
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0.2〜0.1MHz 程度の周波数ズレ
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本機はバリコンのギア機構に問題があります。
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下の写真の(1)で示した軸とギアが固く結合されるべきが、緩くなっています。
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緩みが大きくなると(2)の隙間が大きくなり、ガタが出て 0.2MHz くらいは簡単にズレます。
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筆者が見た時は(2)の隙間が 1mm 以上になっていました。
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手直しはしましたが、使っているうちにまた隙間が出てくるかもしれません。
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別項の [再調整] にてトラッキング調整しましたが、これはバリコン精度に依るので、あまり変わりませんでした。
電波の周波数 (MHz) |
76 |
77 |
78 |
79 |
80 |
81 |
82 |
83 |
84 |
85 |
86 |
87 |
88 |
89 |
90 |
指針の周波数 (MHz) |
76.08 |
77.08 |
78.04 |
79.04 |
80.04 |
81.00 |
82.00 |
83.00 |
84.00 |
84.92 |
85.92 |
86.90 |
87.88 |
88.88 |
89.80 |
再調整
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電圧チェック (VP)
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以下のように正常です。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
Q42-E |
+12V |
+12.1V |
〇 |
IC24-OUT |
+8V |
+8.03V |
〇 |
IC25-OUT |
-8V |
-8.00V |
〇 |
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調整結果
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L-03T (1号機)
に記載の手順で調整しました。
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STEREO 高調波歪率 (1kHz) は、WIDE 時で 0.017% でした。
良好です。
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再調整でステレオセパレーションなどは以下の数値が出て良好になりました。
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調整前は WIDE 時で L=33dB / R=34dB でした。
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その他の数値は非常に優秀です。
項目 |
IF BAND |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
WIDE |
51 |
50 |
dB |
NARROW |
38 |
37 |
dB |
パイロット信号キャリアリーク |
WIDE |
-77 |
-81 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 (MONO) |
0 |
-0.04 |
dB |
REC CAL 信号 |
445.3 |
Hz |
-7.1 |
-7.1 |
dB |
使ってみました
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デザイン
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ダイヤルスケールは最前面で照明はありませんが見易いです。
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黒いダイヤルスケールと赤い指針のマッチングが良いです。
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チューニングノブはタッチセンサになっています。
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[LOCK] スイッチ ON で同調サーボロックがかかります。
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感度や音質
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このクラスになると流石に良い
です。
安定度とか音質とかスペック表現できない部分が超優れています。
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感度が良く、高解像度でカチッとした超高音質です。
高域も低域もよく出ています。
S/N も良いです。
性能は超一流です。
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高解像度の音なのにハーモニー再現力もあります。
音に余裕があると言うか、この辺りが一般機との差です。