KENWOOD KT-747 (2号機) が到着
2023年3月12日、鳥取県日野郡の U さんより KENWOOD KT-747 の修理依頼品が到着しました。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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ケンウッドのチューナー KT-747 を長く使用しております。
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基本的には再調整のみお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [5XK11750] で、電源コードの製造マーキングより [1985年製造品] とわかりました。
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[純正 AM ループアンテナ] は添付されていませんでした。
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フロントパネルの角の部分にポツポツとキズがありますが、パッと見は綺麗です。
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リアパネルにキズはありません。
端子類には輝きが残っています。
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天板には、他の機器が上に載っていて付いたと思われる脚跡があり、汚れもあります。
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底板にサビはなく、非常に綺麗です。
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各ボタンの動きが少し重いです。
原因はゴミがボタンの溝に堆積しているためと思います。
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電源 ON してチェック
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電源は問題なく入ったのですが、ディスプレイに [1888] の表示が薄っすらと出たままになります。
嫌な予感がします。
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同調ノブを回したら、[1888] の表示は消え、正常に動作するようになりました。
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FL 表示器は新品同様の輝度があります。
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FM 受信
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周波数ズレはなく、問題なく受信できました。
[STEREO] 表示も点灯します。
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FM 性能データの測定結果は以下です。
セパレーションや歪率は低下していますが、実用になる程度です。
項目 |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
stereo |
39 |
39 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
mono |
0.21 |
% |
stereo |
0.36 |
% |
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AM 受信
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プリセットメモリのチェック
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プリセットメモリに放送局の周波数を記憶させてから ・・・
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[POWER] スイッチ OFF→ON でメモリが消えないことを確認 ・・・ 正常
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電源コードをコンセントから抜いて、再度入れるとメモリが全部消える ・・・ 異常 (故障)
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KT-747 は電源コードをコンセントに入れた状態では、[POWER] スイッチを OFF にしても MPU やプリセットメモリに電源が供給され続ける設計となっています。
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おそらく、メモリバックアップ用の電解コンデンサが故障していると思います。
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初めて電源を入れた時に [1888] が表示されたのも、これが原因と思います。
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カバーを開けてチェック
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目視からは劣化がみられる部品などは見当たらず、綺麗です。
リペア
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修理依頼者からは [再調整だけでよい] と聞いていたので、修理するかどうか確認しました。
以下の回答でした。
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AM 受信ができない ・・・ AM は聴かないので修理しなくてよい
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メモリバックアップ故障 ・・・ 修理してほしい
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メモリバックアップ故障
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推定通り、メモリバックアップ用電解コンデンサの ELNA 製 C134 2200uF/6.3V (85℃) の故障でした。
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取り外して抵抗を測ると1.5Ωで、内部短絡でした。
すなわち、コンデンサが抵抗に化けていたのです。
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これで今まで動作していたのが不思議なくらいです。
恐ろしいことです。
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放置しておいたら、間もなくチューナ全体が動かなくなったと思います。
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TRIO/KENWOOD のチューナではよくある故障です。
バックアップに使っている電解コンデンサの質が悪いのでしょう。
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電解コンデンサを日本ケミコン製 2200uF/6.3V (105℃)に交換して動作良好になりました。
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105℃クラスを使ったので、信頼性も上がったと思います。
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なお、この電解コンデンサによるメモリバックアップ時間は KENWOOD によると3日間です。
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常時は [POWER] スイッチ OFF でもメモリには電源供給されているので、補助的バックアップの意味合いでしょう。
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左の写真は交換前で、右の写真は交換後です。
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AM 受信ができない
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修理依頼者からは [修理不要] とのことでしたが、上記の電解コンデンサ交換のついでに調べてみました。
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原因は、左の写真からわかるように AM アンテナ端子のホット側のプリントパターンが断線したためでした。
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AM アンテナ端子のホット側端子のハンダ付け部の手前に水平に入った亀裂が見えますが、これが断線部分です。
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リアパネルの端子はプリント基板に直接ハンダ付けされており、力のストレスがかかるので、長期間を経て断線しやすいのです。
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断線そのものは直せないので、右の写真のようにジャンパー線を飛ばして直りました。
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操作ボタンの動きが重い
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フロントパネルを分解して清掃すると、かなり良くなると思うのですが ・・・
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修理依頼者はコスト意識が強い方のようで、やると時間がかかって修理費用がアップするので、止めました。
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それほど、この KT-747 に思い入れがないのかもしれない。
よって、今回は清掃関連は一切やっていません。
再調整
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電源電圧チェック (VP)
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基板上のジャンパーで測定します。
修理後の電源電圧の実測値は以下のように正常でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
J101 |
13.5V |
13.7V |
〇 |
チューナ/オーディオ用 |
J179 |
5.6V |
5.70V |
〇 |
デジタル用 |
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FM/AM 受信部の調整
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調整結果
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FM フロントエンドで大きく調整ズレしていました。
再調整で感度が向上しました。
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FM クォードラチュア検波が大きく調整ズレしており、限界までズレていました。
再調整で同調点および高調波歪率が向上しました。
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FM ステレオセパレーションは 以下となりました。
かなり良好な数値です。
項目 |
stereo/mono |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
stereo |
70 |
60 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
mono |
0.06 |
% |
stereo |
0.12 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
stereo |
-62 |
-66 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
mono |
0 |
+0.06 |
dB |
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AM は再調整により、受信感度が向上しました。
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ただし、[純正 AM ループアンテナ] の添付がなかったので、手持ちの汎用ループアンテナで再調整しています。
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AM の場合、ループアンテナも同調回路の一部なので、純正ループアンテナで使うと最高感度にならない可能性があります。
使ってみました
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デザイン
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放送局のプリセットメモリ数は FM/AM 合わせて14局
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必要十分より少しだけ少ないですが、まあ納得できるメモリ数です。
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プリセットは単に周波数を記憶するだけで、受信モードなどは記憶されません。
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シグナル強度表示のバーが3本あって、[s メータ] [T メータ] の機能を果たします。
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FM アンテナ入力は F 型 75Ω不平衡コネクタ採用で、妨害電波の混入を避けることができます。
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感度と音質
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感度が非常に良く、混変調妨害にも強く、
かなり優秀です。
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FM の音質はケンウッドらしい
硬めでクリアな音質
です。
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AM の音質は普通です。