Accuphase T-107 (2号機) が到着
2022年10月1日、兵庫県芦屋市の T さんより
Accuphase T-107
の修理依頼品が到着しました。
写真は修理& LED 化後です。
DGL 検波
が特長の FM 専用チューナです。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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中古で入手したもので長年大切にしてきましたが、3年ほど放置しておりました。
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最近オーディオセットに組込みましたが、プリセットメモリのバッテリが弱っているようであまりメモリがもちません。
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また、久しぶりに音出しをしましたが、以前と比べ音が悪くなったような ・・・
気のせいかもしれませんが ・・・
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バッテリ交換と修理調整をお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [G5Y148] で、電源コードの製造マーキングより [1985年製造] とわかりました。
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全体的にすごく綺麗な逸品です。
キズやスレがほぼ見当たりません。
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[STATION] (プリセット) ボタンにややサビが出ています。
ここはメタルメッキなのでサビが出やすいのです。
醜いというほどではないので諦めです。
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リアパネルは端子には少しくすみがありますが、使用にはそう問題はないです。
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電源 ON してチェック
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電源は正常に入り、蛍光表示器の輝度は新品同様です。
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メータ照明のランプは点灯していますが、製造後37年 (2022年現在) 経っているので交換時期です。
照明ランプはこの1個だけです。
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受信動作は正常で、周波数ズレはなく、メータは正常に振れ、[STEREO] ランプも点灯します。
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AUTO チューニングは正常に正しい周波数でストップして良好です。
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プリセット操作してみましたが、良好にプリセットできました。
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カバーを開けてチェック
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内部全体および基板は非常に綺麗でゴミやチリがほぼありません。
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メモリバックアップ用の [タブ付き CR2025] コイン電池の電圧 (公称 3V) を測ると 0.4V しかなく、
寿命です。
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このまま放置すると、間もなく大トラブルになる気がします。
最悪、液漏れか、膨張による小さな爆発がおこります。
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オーディオ出力の近くのミューティング用の抵抗×2本が焼損している!
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左の写真は基板のオーディオ端子近くです。
中央よりやや右下に焼損した抵抗があります。
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右の写真は焼損部の拡大です。
基板も黒く変色するくらい相当激しく燃えています。
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いったい何があったのだろう???
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[IC1] [IC2] のピンにマイグレーションが見えます。
いずれも [LA1222] です。
まだ障害には至っていません。
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使用 IC のロット番号よりも [1985年製造] とわかりました。
リペア
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[タブ付き CR2025] コイン電池が寿命
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[タブ付き CR2025] は1次電池ですから、新品に交換しても、またいずれ再交換が必要になります。
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タブ付きだと半田ゴテを使って交換する必要があり、一般のかたでは交換できないです。
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また、この機種は点検用裏板がなく、電池交換のために基板を外すにはかなりの分解作業が必要です。
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修理方針
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[タブ付き CR2025] を [CR2032 ソケット] に変更して、[CR2032] 電池をこのソケットに実装するようにします。
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こうすると、100円ショップでも買えるタブ無しの普通の [CR2032] 電池が使えるようになって、誰でも交換可能となります。
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カバーを開ける必要はありますが、これは誰でもできるでしょう。
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修理実行
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左の写真は修理前の [タブ付き CR2025] で、右の写真は修理後の [CR2032 ソケット] とそれに実装した [CR2032] です。
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ちなみに、この状態で [CR2032] の電圧を測ると 3.27V でした。
交換前の 0.4V とまるで違う!
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[CR2025]→[CR2032] と電池容量も増えているので、以前より長持ちします。
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今後、
[CR2032] 交換の際は
電源コードを抜いてから、[CR2032] の+側が上になるよう挿入
します。
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[CR2032] 交換中でも電解コンデンサが記憶を保持しており、数時間以内に交換すればプリセットは消えません。
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ミューティング用の抵抗×2本が焼損している
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下の回路図はミューティング回路周辺です。
点線で囲んだ [R79] [R82] (いずれも100Ω) が焼損していました。
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焼損の原因ですが、焼損抵抗より左側の回路が故障しても焼損には至りません。
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そうなると、焼損抵抗より右側の回路に問題があったことになります。
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ところが、右側の回路はオーディオ出力端子だけで、普通には高電圧がかかるはずがありません。
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普通では考えられないことがおこった ・・・ おそらく、誰かが外部からオーディオ端子に高電圧を印加したのです。
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MUTING ON か電源 OFF の時は [R79] [R82] の片方は MUTING リレーで GND に接地されています。
この時にオーディオ端子から高電圧がかかったと思われます。
ですから、これらの抵抗焼損だけで済んだのです。
ある意味、
不幸中の幸い
かも。
[R79] [R82] を交換すれば直ります。
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世の中には恐ろしいことをする人がいるものだ!!!
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修理は [R79] [R82] を新しい100Ω抵抗と交換しました。
交換後は良好に正常動作しています。
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取り外した抵抗を測定すると、[R79] が 12.8kΩ、[R82] が 16.0kΩに変身していました。
元は100Ωですから、100倍以上抵抗が増えていました。
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これでも音が出ていましたが、左右の音量バランスが崩れ、[以前より音が悪くなった] と思われた原因です。
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メータ照明ランプが交換時期になっている
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メータ照明ランプはフィラメントランプですから、交換してもいずれ切れます。
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この際、LED 化することにします。
LED にすると、まずランプ切れはしません。
超長寿命です。
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T-107 のメータ照明ランプはメータ内に内蔵しているので、作業はかなり厄介です。
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[フロントパネルを分解]→[メータ取り出し]→[メータを分解]→[ランプを LED に交換] の手順が必要です。
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組み立ては上記の逆の手順になります。
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交換前のフィラメントランプと、交換する LED ランプ
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左の写真はメータに実装されていたフィラメントランプです。
FUSE 型ですが T4.5 程度と細いのです。
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右の写真は交換する FUSE 型 LED ランプです。
T6.3 とオリナルよりかなり太いです。
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このままではメータに入らないので、口金を外して LED モジュールだけにし、斜めにして取り付けます。
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LED ランプとしては優秀で、3個の SMD で構成します。
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1個の SMD には超高輝度白色 LED が3個埋め込まれています。
すなわち、LED×9個分に相当します。
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上はオリジナルの回路で、これを下の回路に変更します。
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LED 化の作業が終わりました。
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左の写真はオジナルのフィラメントランプでの照明です。
橙色で野暮ったいです。
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右の写真は LED 化後です。
白色で現代的な照明に変身しました。
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メータの左側に黄色表示があったんですね。
オリジナルの時はわかりませんでした。
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おそらく、これが設計者が本来目指した色目と思います。
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オリジナルのフィラメントランプの時は 8V×0.3A=2.4W も電力消費していましたが ・・・
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LED には 4.5mA しか電流を流していないので、たったの 0.05W です。
明るくなってエコになりました。
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記録写真
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左の写真は LED 化で追加した配線の様子です。
細い赤と黒の電線で配線しました。
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右の写真は、ここまでの修理で基板から取り外した部品です。
電池交換、焼損抵抗交換を含みます。
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[IC1] [IC2] (LA1222) にマイグレーションが発生している
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無水アルコールとブラシで IC ピンの表面のマイグレーションを除去しました。
裏面は IC を外さないとできないのでやっていません。
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ピン間のマイグレーションは除去できたので、たぶん大丈夫です。
マイグレーションはピン間を短絡させて障害に至ります。
再調整
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電圧チェック (VP)
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以下のように正常でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
[78M05] OUT |
+5.6V |
+5.67V |
〇 |
MCU 用 |
[78M15] OUT |
+15V |
+14.8V |
〇 |
チューナ用 |
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調整結果
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T-107 (1号機)
に記載の手順で再調整しました。
オーディオ出力は FIXED 端子で測定しています。
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フロントエンドでやや調整ズレがありました。
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再調整後のデータは以下です。
高級機らしい優秀な数値です。
項目 |
MODE |
SELECTIVITY |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
STEREO |
NORMAL |
52 |
52 |
dB |
NARROW |
22 |
22 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
MONO |
NORMAL |
0.02 |
% |
STEREO |
0.02 |
0.02 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
STEREO |
-86 |
-85 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
MONO |
0 |
-0.09 |
dB |
使ってみました
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デザイン
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デザインが秀逸で、特に正面から見た時の豪華さに惚れ惚れします。
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フロントパネルはヘアラインの眩しいシャンパンゴールドで上品です。
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フロントパネルのアルミ厚がかなりあり質感があります。
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サイド飾りも写真のように分厚いアルミ材で、デザインを引き締めています。
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FL 表示管は緑がかった青表示で、少し怪しい感じさえします。
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メータだけに照明があり、全体のデザイン上、非常に良い方向に作用しています。
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音質
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音が一歩手前に出てくる感じです。
スタジオのトークも目の前に来ます。
音に引き込まれます。
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歪感の非常に少ない嫌味の無い高解像度の音です。
ハーモニーがフゥワァ〜という感じで綺麗に出ます。
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感度
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感度が良く、微弱電波でもそれなりにシッカリ受信します。
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パルスカウント検波の弱点である [微弱電波では歪率が急激に悪化する] 現象を感じません。
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その他
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セラロック固定周波数発振子など、回路的に無調整回路が多用されており、このため経年変化に強いです。