Accuphase T-105 (3号機) が到着
2022年10月1日、兵庫県芦屋市の T さんより
Accuphase T-107
の修理依頼品が到着しました。
写真は修理& LED 化後です。
Accuphase 社が1980年10月に発売した
定価12万円の高級 FM 専用ステレオチューナ
です。
程度&動作チェック
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修理依頼者のコメント
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中古で入手したもので長年大切にしてきましたが、3年ほど放置しておりました。
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最近オーディオセットに組込みましたが、プリセットメモリのバッテリが弱っているようであまりメモリがもちません。
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また、久しぶりに音出しをしましたが、以前と比べ音が悪くなったような ・・・
気のせいかもしれませんが ・・・
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バッテリ交換と修理調整をお願いします。
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外観
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製造シリアル番号は [B3W369] です。
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全体的にすごく綺麗な逸品です。
キズやスレがほぼ見当たりません。
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リアパネルは端子には少しくすみがありますが、使用にはそう問題はないです。
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電源 ON してチェック
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電源は正常に入り受信動作は正常です。
周波数ズレはなく、メータは正常に振れ、[STEREO] ランプも点灯します。
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蛍光表示器の輝度は新品同様です。
メータ照明ランプが切れています。
照明ランプはこの1個だけです。
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カバーを開けてチェック
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使用 IC のロット番号より [1982年製造] と判明しました。
付属の AC コードの製造マーキングは [1992年] でしたが、別物でしょう。
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T-105 ということで、内蔵ニッカド電池の液漏れを心配していましたが、やはり液漏れして基板が腐食していました。
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写真のプリントパターンが黒ずんでいる部分が腐食です。
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更に、ニッカド電池のマイナスリードの半田付け部分のプリントパターンが剥がれかかっています。
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ニッカド電池の電圧は完全にゼロとなっており、昇天しています。
リペア
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プリセットメモリのバックアップ用ニッカド電池の故障
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ニッカド電池を取り外してから、液漏れ跡を無水アルコールで洗浄しました。
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腐食はそれほど深くなかったので、たぶんこれで大丈夫と思います。
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[ニッカド電池]→[電気二重層コンデンサ] にリプレースする
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[ニッカド電池] は交換しても過放電してしまうと、また液漏れします。
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液漏れしにくい [電気二重層コンデンサ] に変更するのがベストです。
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[電気二重層コンデンサ] はコンデンサですから過放電はありません。
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下の回路図はオリジナルのメモリバックアップ回路です。
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[電気二重層コンデンサ] に変更
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オリジナル回路の [R8] [ニッカド電池] の部分を下の回路図のように変更しました。
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[電気二重層コンデンサ] は、まず液漏れせず、寿命も [ニッカド電池] よりはるかに長いです。
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この回路でメモリバックアップ期間1ヶ月が目標です。
実際に試験できないので目標値です。
もっと持つかも?
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[電気二重層コンデンサ] の取り付け状態の記録
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[電気二重層コンデンサ] はニッカド電池があった場所に取り付けました。
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中央付近の青色の円盤型のものが [電気二重層コンデンサ] です。
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[電気二重層コンデンサ] の手前は [47Ω] [1kΩ] [IN4148] の部分です。
[R8] を取り外して、代わりに同じ位置に組み込みました。
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メータ照明ランプが切れている
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フィラメントランプは交換してもいずれまた切れます。
そこで寿命の長い LED にします。
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8mm 砲弾型・白色・超高輝度50lm・照射角140度の LED を使います。
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1個の LED ランプに LED のダイが直列接続で3素子入っています。
高輝度 LED 3個分と同じです。
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左はオリジナルの回路で、これを右の回路に変更します。
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右の写真は LED 化後です。
メータが綺麗に表示されています。
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照度実験の結果、LED に流す電流を 4mA にしました。
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LED の定格電流は 40mA なので、この10倍の明るさにできるのですが、明る過ぎです。
この程度がちょうどよいです。
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フィラメントランプの時はメータ照明だけで 8V×0.3A=2.4W 電力消費していました。
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LED 化後は明るくなったのに 0.1W くらいです。
2.3W 省エネ
になりました。
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[LED] の取り付け状態の記録
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左の写真で白く光っているのが、今回取り付けた [LED] です。
ランプホルダは元のものを流用しました。
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右の写真のように、電源は [C61] 電解コンデンサの裏側で取りました。
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交換部品の記録
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左から、交換前に基板に実装されていた [フィラメントランプ] [ニッカド電池] [R8 (抵抗)] です。
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[ニッカド電池] はパッと見には漏れが無いよう見えますが、テスタで測ると [起電圧=0V] [両端の抵抗値=20Ω] と完全に故障していました。
再調整
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電圧チェック (VP)
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以下のように正常でした。
VP |
標準値 |
実測値 |
判定 |
備考 |
[78M05] OUT |
+5.6V |
+5.67V |
〇 |
MCU 用 |
[78M15] OUT |
+15V |
+14.9V |
〇 |
チューナ用 |
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調整結果
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T-105 (1号機)
に記載の手順で再調整しました。
オーディオ出力は FIXED 端子で測定しています。
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調整してみてわかるのですが、クリチカル感はなく、安定にスッと最適値に調整できました。
やはり、高級機です。
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フロントエンドの調整ズレはほぼありませんでした。
使っている部品のグレードが高いのでしょう。
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ボリュームでの設定箇所があちこちで大きくズレていました。
過去に誰かがいじったのでしょう。
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検波回路の歪率の調整が大きくズレていました。
再調整後は歪率が大きく改善し、音質が向上しました。
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FM ステレオセパレーションの調整が大きくズレていました。
再調整後はセパレーションが大きく改善しました。
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S メータ/D メータのの調整が大きくズレており、特に S メータは振れ過ぎでした。
これらを、適正値に再調整しました。
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再調整後のデータは以下です。
高級機らしい優秀な数値です。
項目 |
MODE |
SELECTIVITY |
L |
R |
単位 |
ステレオセパレーション (1kHz) |
STEREO |
NORMAL |
54 |
56 |
dB |
NARROW |
24 |
24 |
dB |
高調波歪率 (1kHz) |
MONO |
NORMAL |
0.02 |
% |
STEREO |
0.03 |
0.03 |
% |
パイロット信号キャリアリーク |
STEREO |
-76 |
-82 |
dB |
オーディオ出力レベル偏差 |
MONO |
0 |
+0.02 |
dB |
使ってみました
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デザイン
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デザインが良く気品がある
Accuphase デザイン
です。
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フロントパネルはシャンパンゴールドで、とても厚みがあります。
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チューニングノブの動きに高級感があり、ボタンの操作感も良いです。
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再調整でメータの振れが大きく変わっています
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S メータは、到着時はバブル的な振れ過ぎでした。
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再調整でメータの数値と電波の強さ dBf がほぼ合うようになりました。
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正しい電波強度を表示する優秀な S メータです。
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D メータは、到着時は過少でした。
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再調整後はメータの数値と変調度 % がほぼ合うようになりました。
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実際に使ってみると、民放では 100% を超えることが多いです。
過変調されているのですね。
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性能・音質は優秀
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感度、音質、ステレオセパレーションは優秀で安定感があります。
やはり高級機ですね。
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再調整で高調波歪率とステレオセパレーションが改善したので、音の分離度が良くなりました。
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デザイン・性能・音質に全てに満足できる
超優秀機
です。